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□01.二十歳までに悟りを拓くのが夢です
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嫌な予感が、した。



「クラウドー!」


射撃訓練の後、マテリアの講義を聴くために同期と会話を交わしながら歩いている最中、後ろから聞き覚えのある声が自分を呼び止めた。
足を止めて声のした方を振り返ると、同居人のザックスが手を振りながらこちらに走り寄ってくるところだった。

「ザックス、どうしたの?」

嫌な予感とは結び付かないその姿にホッとしつつ、同期には先に行っててくれと伝えてから、ザックスにそう問い掛ける。
既に彼は自分の目の前に立っていて、満面の笑みを浮かべて俺の手を取ると、突然がばりと抱きついてきた。

「クラウド!!水臭いじゃないか!!」

「は、えぇ!?」

何で言ってくれなかったんだよと、訳の分からないことを叫びながら尚も締め付けてくる腕。

(何っ!?一体何事!!)

ザックスの腕の中から抜け出そうともがくけれど、どうにもこうにもびくともしない。
何がとか、どうしてとか、混乱した頭の中にいくつも疑問が浮かんだけれど、声を出そうにも締め付けが強すぎてままならず。
ザックスの腕を何度か叩いて訴えるも、それが緩められることはなかった。
終いには息苦しさも感じ始めて、もがく力を強めようと身を捻ると、急にその身が解放され、ふわりと体が宙に浮く感覚。

そして、耳元で聞こえた甘く低い声。

「躾のなってない子犬め。」

酸素を求めて咳き込む俺の背をさする大きな手と、先程とは打って変わって柔らかく優しい腕に抱き込まれた。

「ジェネシス!!」

「アンジールに言っておこう。人のモノに無闇にじゃれつかせるなとな。」

「俺は犬じゃない!」

「五月蝿い子犬だ。」

「だから、違うっつーの!」

だいたいクラウドは俺が好きだとか、否違うそれは俺の事だだとか、嘘言うなその腕離せとか何だとか。頭上で交わされる応酬について行けず、暫くその遣り取りをボーっと眺めていたが、ふと。
時間を確認すると講義開始時間はとっくに過ぎていて。

(しまった…!)

俺は何とかこの状況から抜け出すべく、未だ言い争いをしているジェネシスとザックスに恐る恐る声を掛けた。

「あのー、俺、次の講義があるんで…」

退いて下さい、と続けようとした最中。
ジェネシスと目が合ったな、と思った瞬間に彼に顎を捕まれ上向かされて。驚きと共に降ってきたのは柔らかい感触。

「あぁー!!」

「ふ、これで分かっただろう。コレが誰のモノか、がな。」

「ジェネシス、お前っ」

(くち…。くちにされた…。)

今まで。母親にだってされたことのない場所。
ザックスにだってセフィロスにだって、未だに許していなかったそれは所謂、ファーストキスを意味していた。
初めてのキスだ、と認識した途端顔から火が出るんじゃないかと思う程に火照る頬。
俺は慌ててジェネシスの腕の中から抜け出すと、パニック状態の頭で言葉を紡いだ。

「お、俺!もう行かないと…っ」

二人の顔がまともに見れなくて俯いたままそれだけ言うと、俺は出来る限りの全力疾走でその場を後にしようと足を踏み出す。

すると。

下を向いたまま走り出した先で、誰かとぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい!」

慌ててその人物に謝罪を述べて顔を上げると、そこには思いも寄らない人が居て。
今まで赤く火照っていた顔から、一気に血の気が引いていく音がした。

「セフィロス…。」

「クラウド。」

突然のセフィロスの出現に完全にフリーズしてしまった俺に、彼はゆるりと笑顔を向けると、ジェネシスがしたのと同じように彼は俺の顎を持ち上向かせると、そっと唇に同じものを押し当てた。

「…!んんっ」

最初はゆっくり、啄むように口付けられたかと思うと、下唇を撫でるように彼の舌が這い、その不可思議な感覚に思わず口を開くと、そこから舌が無遠慮に口内に侵入してきた。
ざらりとした感触が所構わず行き来するのをギュッと目を瞑って堪える。
息が出来ずに苦しくなる。両手で彼の胸を押すと、それまで好き勝手に口内を荒らしていた舌が、抵抗無く離れていった。

「――ッ、は。」

「消毒だ。」

ニヤリと、不敵に歪む口元。その言葉に、激しいキスによって上気していた頬が更に赤くなる。

「セフィロス!!」

再び、今度はセフィロスの腕の中に閉じ込められると、背後から近付いてくる二つの気配。

「セフィロス、消毒とは、聞き捨てならないな。」

「アンタ、俺のクラに何してんだよっ。」

「…一遍に喋るな。煩い。」

(また、始まった…)

折角抜け出したと思った輪の中に再び入り込んでしまい、尚且つ先程よりも更に輪をかけてややこしい事態に、俺はなんだか眩暈を感じていた。

(何でこんなコトになったんだろう…)

そもそもの原因を思い出そうと思考を巡る。
確かザックスが俺を呼び止めたのが原因だったはずだ。その時に彼が言っていた言葉は全く訳が分からなかったけれど、もしかしたらそれが全ての要因だったりするのかもしれない。

「クラウドは俺のことが好きなの!」

「戯れ言を…。子犬は子犬らしく、大人しく与えられた餌でも食べていろ。」

「ジェネシス、お前はLOVELESSが全てなのだろう。ならばクラウドに手を出すのを止めろ。クラウドは俺の大切な恋人だ。」

聞こえてくる口論の数々。その中に幾つか不穏な単語が交ざっていることを俺は漸く理解した。

(誰が誰を好きで、誰の恋人だって…?)

眩暈の上になんだか頭痛までしてきた。

何なんだ。どうしてこんな事態になってしまったんだ…。

『クラウド!』

若干意識を飛ばしていた間に、何時の間にか三人に詰め寄られていて。

「な、なに…。」

あまりに真剣なその三人の顔に思わず身を縮ませる。

『お前は誰が好きなんだ?』

(ぁあもう…本当に。)

「いい加減にしてくれ!!」








******









その日から毎日、三人のクラス1stに追い回されるクラウドが目撃されたとかされなかったとか。


(ああ、俺…)

01.二十歳までに悟りを拓くのが夢です

(そしたらこんな毎日も耐えられる筈だから…!!)



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