■ダストボックス■

□神父中学生
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キラキラ光るその場所が好きだった。




街の片隅、ひっそりと佇む教会の前に立って一つ、深呼吸。
走ってきたせいで乱れた息を落ち着けて、髪や制服を簡単に整えてから、古く重苦しい扉のノブに手を掛ける。

(今日もいるかな。)

ドキドキと弾む胸。決して走ってきた所為だけではないその鼓動を抱えながら、そろりと中を伺うと、大きな十字架の前に跪き、祈りを捧げている一つの影。

幾つものステンドグラスに囲われ、日の光によって幾重もの色彩に身を彩られている姿を目にして、俺の心臓は更に大きく脈打った。

(……いた。)

「クラウド!」

その姿を見つけるや否や、扉を大きく開け放ち勢い良く中へ駆け込む。
バタバタと音を立ててその人物に駆け寄れば、彼はゆっくりと立ち上がって此方を振り向いた。

「…ザックス?」

オレの名前を呼ぶ甘い声。小さく首を傾げたために、蜂蜜色の髪がふわりと揺れた。

「クラウドっ、今日のお祈りは終わったのか?」

今にもクラウドに飛びつきそうな勢いでそう問い掛ければ、彼は日向のような笑みを浮かべて笑った。

「うん、たった今ね。それよりザックス、僕のことは神父と呼んでって言っただろう?」

「えー、クラウドじゃダメ?」

「ダメ。一応、僕にも体裁ってものがあるから。」

咎めるように言われた言葉に、思わず口を尖らせる。その呼び名はあんまり好きじゃなかった。どこか他人行儀だし、街のみんなと同じ呼び方だったからだ。

(オレは、みんなと一緒はイヤなんだよ。)

そう。オレはクラウド神父に惚れていた。それはもう、オレにしては驚くぐらい直向きに。
きっかけは、オレが学校サボってフラフラして、たまたまこの教会に足を踏み入れた時からだ。
さっきみたいに十字架に祈りを捧げてるクラウドの姿にときめいて、顔を見た瞬間恋してしまったのだ。
白い肌が映える黒い神父服。淡い金色の髪に青空みたいな瞳の色が印象的で。俺より10個近く年上なのに、それを感じさせない見た目。
そして、日の光を浴びた幾多のステンドグラスから伸びる色とりどりの光の筋の中に立つ様は、まるでおとぎ話の中のワンシーンの様で。その日からオレの頭の中はクラウドのことで一杯になってしまったのだ。
それからは、毎日のように教会を訪れるようになった。あ、学校サボって行くとクラウドが怒るから、今はもうしないけど。

「じゃあ、そうやって呼ぶのは2人だけの時だけにする!それならいいだろ?」

名案!とばかりに声を弾ませて言ったオレに、クラウドは一瞬呆気にとられていたが、すぐに苦笑してオレの頭をくしゃりと撫でた。

「仕方ない、いいよ許可する。ただし、2人きりの時だけだよ?」

そう言って尚も頭を撫でてくる彼に、オレは満面の笑みで頷く。
頭を撫でる仕草が、子供扱いされている様で少しつまらなかったけど、それよりも。彼に触れてもらってることがオレは純粋に嬉しかった。

「なぁ、今日こそオレに付き合ってくれよ?」

「だめ。まだ全てのお務めが終わってないから。」

「ちぇ。こないだもそう言って断っただろ。」

「ごめんねザックス。」

意外とやらなきゃいけない事は多いんだ、と言ってクラウドは困ったように笑った。
オレは困った顔もイイなぁとその表情に暫く見惚れていたが、クラウドが「もう行かなくちゃ。」と言ってオレの側から離れていくのにハッとする。離される手のひらがなんとも名残惜しい。

「オレ手伝うよ!」

下ろされたその白い手を目で追いながら、その温もりを引き留めようと咄嗟に言葉を投げかけた。

「クラウドのしなきゃいけない事全部終わったら、オレに付き合ってくれるだろ?オレ手伝うからさ。早く終わらせて出掛けようぜっ」

クラウドに向けて、任せとけ!!とどんと胸を叩く。

「でも、」

「遠慮は無用!」

「そ?なんだか悪いな。」

「気にすんなって。オレが好きでやるんだからさっ。」

「なら、多少なりともご褒美あげないとね。」





END



*見て分かるように最後尻切れ。
この先浮かばんかってん…。


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