■ダストボックス■

□神父中学生
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キラキラ光るその場所が好きだった。




街の片隅、ひっそりと佇む教会の前に立って一つ、深呼吸。
走ってきたせいで乱れた息を落ち着けて、髪や制服を簡単に整えてから、古く重苦しい扉のノブに手を掛ける。

(今日もいるかな。)

ドキドキと弾む胸。決して走ってきた所為だけではないその鼓動を抱えながら、そろりと中を伺うと、大きな十字架の前に跪き、祈りを捧げている一つの影。

幾つものステンドグラスに囲われ、日の光によって幾重もの色彩に身を彩られている姿を目にして、俺の心臓は更に大きく脈打った。

(……いた。)

「神父!」

その姿を見つけるや否や、扉を大きく開け放ち勢い良く中へ駆け込む。
バタバタと音を立ててその人物に駆け寄れば、彼はゆっくりと立ち上がって此方を振り向いた。

「…ザックス?」

オレの名前を呼ぶ甘い声。小さく首を傾げたために、蜂蜜色の髪がふわりと揺れた。

「クラウド神父、今日のお祈りは終わった?」

今にもクラウド神父に飛びつきそうな勢いでそう問い掛ければ、彼は日向のような笑みを浮かべて笑った。

「うん、たった今ね。」

「お疲れさま。」

クラウド神父に釣られてオレも笑いながら、彼に労いの言葉を掛ける。
何せ、彼がする"お祈り"に掛ける時間は、裕に一時間を越すからだ。
初めてそれを聞いた時は疑心暗鬼で、実際それを目の当たりにした時はすごく驚いた。

(本当に、微動だにせず祈ってんだもん。)

「ほんと、毎日よく飽きないよな。」

近くにあった長椅子の縁に腰を下ろしながらそう言うと、クラウド神父は苦笑した。

「飽きるとか飽きないとか、そういうものじゃないんだよ。」

「うーん、まぁそうなんだろうけど。」

オレからしたらすごい忍耐力だと思わざるを得ない。

(オレ、授業だって大人しく受けれないってのにさ。)

今日も、数学の授業中に落ち着きがないと怒られたばかりだったりする。
教科担当のアンジールに何度頭を叩かれたことか。

「それよりザックス、どうしたの?」

そんなに慌てて急ぎの用でも?と聞かれてハッとする。

(そうだった、今日は神父に大事な用があって来たんだ。)

当初の目的を思い出したけれど、それを言い出すのはちょっとだけ勇気が入って。不思議そうに眺めてくる神父の姿を視界に入れながら何と言って切り出そうか思案していると、神父が急にオレの前に来て跪いた。

「クラウド神父!?」

突然の神父の行動にびっくりしてオレは思わず声を上げた。そんなオレに彼は少しだけ目を伏せてから、顔を上げる。
自然、ぶつかる視線。

「もしかして、何か悩み事?」

澄んだ青色がオレを見上げる。その姿にまた、胸が激しく脈打った。
普段は見下ろされる側だから滅多に拝めないアングルにドキドキする。
オレだって背が低い方じゃない、学年の中でも高い方だけど、そんなオレより幾分も高い思い人。
その事実にちょびっとヘコまないでもないが、オレだって成長期真っ只中だから、すぐに追い抜いてみせると前向きに考える。

「うん、そう。実は今日、神父に相談があって来た。」

本当は悩みを相談に来たんじゃないけど、神父に聞きたいことがあったことを相談にかこつけて聞き出そうと思い至る。

「どんな相談?」

変わらず見上げてくる視線にドキマギしながら、オレは神父から視線を外してぽつりと呟く。

「好きな人について。」

オレの言葉に神父がどんな顔してるか気になったけど、なんとなく視線を戻せないまま足元を見つめる。

「一目惚れだったんだけどさ、気になって仕様がないんだ。」

「うん。」

「笑った顔は、陽向みたいに柔らかくてくすぐったくてさぁ。普段は綺麗だなぁって見惚れる感じなんだけど、その時の顔はなんか可愛いんだ。」

「そうなんだ。」

「何しててもその顔が頭に浮かんじゃってさぁ、ヤバい。」

ひとつひとつ言葉にする度に脈打つ心臓が五月蝿い。手が汗ばんで顔も熱い気がする。
平常心で振る舞おうと思うけど、それが上手くいってるかどうかはわからなかった。
だって、告白してるようなものなんだから。

「そう、ザックスはその人が本当に好きなんだね。」

その穏やかな声にチラッと視線を上げると、さっきと変わらない笑みを浮かべてオレを見ている神父の姿が目に映る。

「うん、そう。」

その姿に少しだけ胸の奥がチリ、と痛む。オレに好きな人がいるって知っても何とも思わないのかなぁとか考えないでもないけど、今はそんなの後回しだ。
相手がどう思ってるか不安になって足が竦んで動けなくなるより、オレは自分が出来る精一杯の努力をして、好きな相手を振り向かせることに時間を費やしたかった。

「好きだ。」

どうしても照れくささが先立ってしまって、思い人を真っ直ぐ見ながらは言えなかったけど、自分なりに真剣に宣言をしたつもりで。
まさか自分のことだなんて思ってないだろうなぁなんて思いながら言葉を続けた。
さぁ、ここからが本題だ。

「なぁ、神父はこんな気持ちになったこと、ある?」

「僕?」

「そう。好きで好きで仕方ない!って思うような人がさ。」

いる?って、何気ない振りして問い掛ける。
オレの今日の目的。クラウドに好きな人がいるかどうかを聞き出すこと。
今までの彼の素振りから、そんな人物がいる様には思えなかったけれど、直接聞いてみないことには分からない。
神父はオレの質問に少しだけ沈黙した。その嫌な間に顔を上げて神父を見ると、彼は少しだけ困ったような、迷っているような微妙な顔をしてオレを見ていた。

「うぅん。難しい質問だな。」

「難しい?」

彼の言葉に首を傾げる。神父はうん、と頷くと、言葉を続ける。

「僕は、ザックスが抱えてるような気持ちになったことはないんだ。」

「え?」

「直向きな気持ち、って言うのかな。そういうもので誰かを思った事がないから。」

目を伏せて、そっと首から下げられていた銀の十字架を握る神父。彼が何を考えてるのかなんてオレには分からなかったけど、その姿が何処か寂しそうに見えて。

「神父は、誰かを好きになった事がないってこと?」

それはオレにとっては嬉しい事実なんだけど、神父の姿を見たらそうとだけは思えなかった。




END


*脳内でドロドロ恋愛中のクラが離れず、目指す方向と違う話になりそうでボツ。
あと神父とか関係なくね?と思ってやめますた(笑)


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