■ダストボックス■

□学生
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逃げたんだ。

これ以上あの場所にいることは耐え難い苦痛だった。
そこにいるだけで息苦しく、体中を苛む倦怠感。
微熱を引きずりながら、望まれる通りに振る舞う愚かしさを理解していながら、反旗を翻すことも出来ずに。
正しく在りなさい。家のため血のため、清く気高く、逆らう無かれ。
決して正しくはない道を正しいと。他人を卑下し、自分の優位を鼻で笑う所作が気高さだと。家のためならば黒を白と言うことを厭わないそれは決して。正しさではなく、気高さでもない。
自分の意志とは間逆に進んでゆく激流に呑まれてしまえば、あとは只暗い彼方へ堕ちてゆくのみ。

そんな毎日に。体も心もとうに悲鳴を上げていた。



******



「―…リウス、シリウス、起きて。」

肩を揺らされる感覚。
鼓膜を響かせるは耳馴染んだ声。
意識は少しずつ覚醒していたけれど、目を開けるのが億劫で、自分を揺さぶる手から逃れるようにひとつ寝返りを打った。

(折角気持ち良く寝てんのに…)

鬱陶しいなぁとぼんやり思いながら再び眠りの淵を漂う。
しかし、自分の意志などお構いなしとばかりに肩を揺さぶる手は更に強くなり。起きろと強く強要する声も止むことはなかった。

「…っせーな。」

それでも暫く粘っていたのだが、最後には頭を叩かれて。何だよ、と不機嫌を隠そうともせず背後の気配に振り向けば、そこには呆れ混じりの親友の姿。

「お前ね、授業だけじゃなくてHRまでサボることないだろ?」

「はぁ…?何言ってんの。」

「お前が気持ち良く寝てる間に、とっくに終わったって言ってんの。」

「え、マジで!?」

ため息混じりに言われた言葉に勢いよく起き上がる。と同時に頭に浮かんだのは担任の青筋浮かんだ完璧な笑顔だった。

(あー…しまったなぁ。)

担任のリーマス・J・ルーピンは普段は優しく生徒思いなのだが、規律違反や目に余る行動には相応の罰則を課すこともまた、周知の事実だった。

こないだリーマスの呼び出しをフケて一週間のトイレ掃除(ご丁寧にリーマスの監視付き)、その前は授業中に爆睡して資料室の片付け(この時は片付けついでに興味を引いた本を数冊拝借して更に怒られた)、他にも自分は前科持ちなだけに、次にどんな罰則をくらうのか。考えるだけで気が萎えるというものだ。

「次は何処掃除だと思う?」

「さぁな。ま、リーマスの机じゃなけりゃ何処でもいいや。」

あの魔窟に手を出すのだけは御免だった。
ニヤニヤと楽しそうに問われたことに伸びをしながら答える。コンクリートの上で寝ると、体がバキバキするなと首も二、三度鳴らして凝りを解す。

腕時計を見れば、時刻は既に5時を指していた。

「げ、やっべ!」

いつもは六時からのシフトなのだが、今日は店長から30分早く入ってほしいとの連絡を受けていた。学校からバイト先のコンビニまでは片道15分。単純に考えれば充分間に合う時間だが、生憎その前にしなければいけないことがある。

「悪ぃ、ジェームズ!俺帰るわ」

「寝坊助起こした労いはないのかい?」

「thanks,my friend!恩に着る!じゃあなっ」

ジェームズに手を振りながら脱ぎ捨てていた上着を拾って足早に屋上を出る。
後ろから「後で店に行く!」との声が聞こえてきたが、それに答えている余裕はなくて。
教室へと続く階段や廊下をがむしゃらに駆けて、自分の机から鞄をひっつかむと同じスピードで昇降口まで走る。
靴を履き替えて外に出ると、まるでそれを待ちかまえていたかのように携帯の着信音が鳴った。

(ヤベェ!!)

俺は慌てて鞄から携帯を取り出すと、通話ボタンを押してそれを耳に当てた。

「マリア!?悪い、ちょっと遅れる!!」

余裕のない俺の言葉に、電話口からは何処か呆れたような声が響く。
何度か会話を交わして電話を切ると、駐輪場から自分の自転車を引っ張り出して勢いよく漕ぎ出した。




END


*続きが書けなくてあえなく断念。


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