■ダストボックス■
□灯籠の部屋
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暗がりの部屋。
灯る燭台をぼんやり眺めながら、オレはつい数日前の出来事を思い返していた。
真剣な顔付きだった。今日日、希に見るぐらいの。
お前のことが大事だと、低い声でそう漏らすソイツのことを、オレはどんな顔して見ていただろう…。
不思議な感覚だった。俺のことが大事だと、ジェームズが言う。
実は初めてのことだったりするんだこれが。
光と影、影と形なんて呼ばれていて。実際、俺とジェームズもお互いのことをそう思っていて。
何するにも結構、言葉とか要らなくて。
だから互いに互いをどう思ってるかなんて、改めて言葉になんかしたことがなかった。
(変な感じ、だったなぁ)
俺に対して改まってるジェームズも、そんなジェームズに対して何の軽口を叩けなかった俺も。
気の利いたことなんて何一つ言えないまま、うんだとかああだとか、何とも情けない返事を返したような記憶がある。
そんな俺の反応にジェームズは苦笑して、俺の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回した。いつもされている行為なのに、そのときに限っては、何故か胸の奥がツンとした。
変なんだ…あれから。
俺たちは今まで通り、まるであの微妙な雰囲気なんてなかったかのように振る舞っていたけど。
授業の合間に悪戯の計画を練ったり、廊下で会うセブルスをからかったり、互いに自分の時間に没頭したり。
しかしそんな時間の合間に、さざ波のごとく寄せたり引いてゆく感情の波に翻弄されていた。
俺の事が大事だと、お前は言うけれど。
じゃあ俺は?
お前のことが大切だと、言い切れるか?
愚問だ。
お前が大切だ。果てしなく愚かしい程、只ひたすら盲目的に。
この思いはもしかしたら、お前が云うそれとは似て非なる感情なのかもしれないけれど。
それは俺の中に無くてはならない感情として存在していた。
けれどどうしてか、そうだとお前に宣言することは憚られた。
ふと。部屋の中の空気が震え、蝋燭の灯りが小さく揺らめいた。
その原因となる入り口の扉へと視線を向ければ、先程まで閉じられたそれが半ばまで開かれ、一人の男が音もなく部屋の中に入り込んでくる所だった。
END
*とにかくお互いを大事に思ってるんやでー、という話を書きたかってん。
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