■ダストボックス■
□傷付くということ
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泣かないでよ。
泣かせたくてこんなことしたんじゃない。
「なぁ、泣かないで。」
そっと、濡れた頬に両手を伸ばす。溢れる滴を何度も拭いながら、僕は彼に泣かないで、と繰り返す。
「ば、か…やろう。」
ぎゅっと目を瞑り、首を力無く振るお前。
泣かないでと只々繰り返す僕と同じように、君もひたすら、馬鹿野郎と繰り返していた。
互いの気持ちが噛み合わなくて、伝わらない事が酷くもどかしい。
こんなに大切なのに。
こんなに愛おしい気持ちが溢れていて、こんなに大事な存在で。故に、君を守りたいという気持ちが君を悲しませることが、僕は辛い。
「泣かないで。」
僕は平気だから。
「笑ってよ。」
その笑顔で、僕は救わるんだ。
「好きなんだ、シリウス。」
君がそこにいることが、僕は嬉しい。
僕の傍にいる君のことが何より愛おしいんだ。
「…っかやろ、だったら、お前が笑え!」
そう言って、シリウスは僕の手を振り払う。咄嗟の出来事に驚いて目を見開くと強い眼に射竦められた。
「泣くなと言うなら泣かせるようなことすんな…笑えと言うならお前が笑え!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で叫ぶ君。胸ぐら捕まれ揺さぶられ、悲痛なその表情のまま、僕の胸に頭を押し付けて。
「俺が好きなら、頼むから俺を守ろうとするな。」
喉の奥から、絞り出すように吐かれた言葉が胸に刺さる。
容赦なくグサリと突き刺さったその刃は、じゅくじゅくと僕の身を奥へ奥へと容易く貫いてゆく。
「俺を庇って怪我なんかすんな!!」
「無茶苦茶だな、ホント。」
君の言葉通り、君に笑って欲しくて笑おうと試みたけど、失敗した。
酷くぎこちなくて不細工な笑みを浮かべ、君の背に腕を回す。
分かってる?君がそれを言うのはとても卑怯な事なんだってこと。
「君がそれを言うの?」
好きな人を庇うなと。大事な人が傷付く姿を黙って見ていろと言うのか。君は真っ先に動き傷付き身も心も犠牲にして庇おうと力を尽くすのに。
「卑怯だなぁ。」
「五月蝿い…っ」
「僕は、君を守るよ。」
君に何と言われようと、僕は君に何かあれば駆け付けるし、傷付きそうなら庇うだろう。
君がどんなに拒もうが、それだけは譲れない。
「それが嫌なら、僕に守られないようになれよ。」
シリウスの頭をキツく抱き込む。愛しい気持ちが溢れてどうしようもなかった。
(頼むから、無茶するなよ。)
君が無茶して怪我する度に、背筋がひやりとしてどくどく脈打つ心臓がたまらなかった。
そんな思いは、出来ることならもうしたくなかった。
END.
*どないしたかってん、私…
書き始めは鹿犬親友序章を書きたくて始めたんだけども、ね?
ジェムさん名前も出てないっていう。