FFZ*NOVEL

□05.消毒液と傷口
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いい加減に。

本当に、いい加減にして欲しい。


「馬鹿だろ、アンタ。」
自分でもわかるぐらい難しい顔をしている。自覚があるだけに、なるべく相手の顔を見ないように努めながら、救急箱から包帯、ガーゼ、消毒液を取り出して、目の前で締まりのない顔をしている男にそう悪態を吐く。

するとその男は心底心外だ、とでも言いたげな表情で見返してきた。

「なんで?」

そして、その表情が物語っているままそう問い返された。
…こいつ、本当に馬鹿野郎だ。

「ここに至ってもまだそう聞き返してくるトコロ。」

苛々とそう切り返せば、男…ザックスは不適な笑みを浮かべて軽口をたたいた。

「んー…クラちゃんの可愛さの前じゃ、誰しも馬鹿に成り下がるしかないってゆーか?」

空気が凍った、気がした。
もしかしたら時も止まった、かもしれない…一秒や二秒ぐらいは。
それに伴って、俺の中の怒りメーターは加速度をつけて急上昇した。

「…………。」

「ぃいってぇえ!」

無言で傷口へと消毒液をぶちまければ、ザックスは何とも情けない声を挙げて、大袈裟に痛がってみせた。

そんなことで同情してやるもんか。大体にして、今こんな状況になっているのは自業自得なんだから。

「冗談も休み休み言え。」

尚も冷たくそう切って捨てれば、ザックスはふてくされてそっぽを向いてしまった。

憎らしい。なんとも憎らしいこの態度。

(もう一回、消毒液ぶちまけてやろうか…)


「冗談じゃないもーん。」

「阿呆か。」

大の大人が口をとがらせていじけるなと一蹴する。だいたいにして、そんなもの大の男がやったって何も可愛くないのだ。

「ちぇ、怪我人には優しくって教わらなかったかぁ?」

変わらず不満たらたらな態度に苛立ち、再び傷口目掛けて消毒液をありったけぶちまけてやる。

ばい菌と一緒に、この男のイカレタ思考回路も消毒できたらいいのに!

「5階の窓から、飛び降りて怪我する馬鹿に、向ける優しさなんか、ない!」

自業自得だ!と再び告げるが、そんなことでひるむ男じゃないことは分かり切っていた。ああ、くそう。

「だーかーらぁ、不覚だったんだってぇ」

「五月蝿い。」

「ちーっと、着地ミスっただけだったんだよ。」

「五月蝿いよ。」

「まさか、猫が飛び出してくるって思わなくてさぁ。」

「黙れ。」

「怒るなよ。」

一刻も早く逢いたかったからさぁ、ついショートカットォ。なんて、ヘタレ顔で言われたので。


…怒りメーターはMAXを迎えた。

「ザックス?」

にっこりと。今までにないぐらい満面の笑みを貼り付けてザックスと向かい合う。
普段笑顔なんてなかなか作れないくせに、こんな時ばかりすんなりと笑ってみせる自分が忌々しい。

あぁ、限界を超えると人間、笑うしかないんだなぁ。

「ん?」

そんな俺に向かって、ザックスも更にしまりのない顔で首を傾げる。
お前ほんと可愛いなぁなんてソレ、ほめ言葉になってないよ?

「今からアンタ殴り倒すから、歯ぁ食いしばれ。」

「え゛、ナンデ…!!」

言うが早いか、ザックスが言葉を発しているうちに、渾身の力を込めた俺の右ストレートが、見事にザックスの左頬にヒットした。





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