戦国

□唇、触れて
1ページ/2ページ


「かごめ・・・」
「あっ、犬夜叉・・・」
「ここ、か?」
「痛っ!!」
「我慢してくれ。すぐ終わるから・・・」
「・・・うん。でももうちょっと右のほうかも・・・」
「み、右?」
「つっ!!」
かごめを下に犬夜叉が馬乗りになり、愛を交わし合う二人の姿が・・・・あるわけではなかった。
「そっちは左でしょ!?あんた左右も分かんないの!?あっきれた・・・」
「しょうがねえだろ!!後ろ手じゃ見えねぇんだよ!!ったくこんな厄介なもん着けやがって。」
背を向け合った犬夜叉とかごめの左と右手首にそれぞれに嵌まっているのはこの時代にしては珍しい手錠型の拘束具。簡単な作りで作られているわけでなく御丁寧に壊れにくい鉄で作られていた。しかし両手はそれで繋がれていないのは資金不足なのか・・・。
とにかく不幸中の幸いで手錠で片手だけが繋がれ、両手は縄で縛られているだけだったが。
「今日じゃなかったらこんなの一発で壊してやるってんのに・・・!!」
今日は一月に一度やってくる朔の日。今の犬夜叉の力では縄を引きちぎるのも難しかった。

そもそも妖怪に襲われてはひとたまりもない、と村に泊まったのが災いしてこの状況だ。
日の暮れる前にこの村に入った犬夜叉たちは小屋を借りて一晩過ごす事になったのだが、褥に入ろうとした時に突然村人達が襲いかかり、犬夜叉とかごめは今居る小屋に雨乞いの生け贄として閉じ込められた。弥勒達は恐らく二人を助ける手立てを今頃練っているだろう。
「しょうがないでしょ。弥勒さま達が来るまで待ってなきゃ。だからこうして縄を切ろうとしてるんじゃない。」
ただ待っていてはもどかしい二人は偶然持っていたソーイングセットの小さな鋏で切ろうと試みていたのだが、犬夜叉は誤ってかごめの手首に鋏の先を刺すという失態を犯してしまうのだ。
「もうバカッ!!犬夜叉がちゃんとやってくれないから外れないじゃない!!」
「だったらかごめがやればいいだろーが!!」
「私じゃ力が足りないのよ!!」
「うっ・・・」
縄を切るにも相当な力がいるわけで女のかごめでは出来ない。リュックからアウトドア用のナイフを取り出せれば簡単に切れただろうが生憎リュックは元居た小屋の中だ。
きっとこのままの両手を後ろで縛られた体制だとかなり体力を消耗する。せめて片手だけでも自由にならねば。

「縄が外せれば、手錠は針があるから解けると思うの。だから犬夜叉、あんたが縄を切ってくれないと・・・」
「わあったよ。」
ガチャガチャと鉄の擦れる音を立てながら犬夜叉は鋏を縄に押しつけてそれを鋸で木を切る要領で引く。小さな鋏では一回で紙を切るようには出来ないのだ。
「かごめ、痛くねぇか・・・?」
「う、うん、大丈夫よ。」
「そうか。ならいい。」
(ど、どうしたんだろ?犬夜叉・・・さっきまであんなに怒ってたのに・・・)
彼はここに監禁されてからずっと苛ついていた。それは彼の性格を考えれば当然だろう。その間かごめは少しぐらい気遣ってくれてもいいのに、と思っていたがこうも急に優しい言葉をかけられては犬夜叉を意識してしまう。
(やだっ!!なんでこんなにドキドキするの!?)
「お、解けたぞ!!」
「え?」
胸の高鳴りを抑えようと苦悶していた間に縄が切れたらしい。腕を少し引くとぱら、と切断された縄の残骸が床に落ちた。
(よ、よかった・・・)
こんなに近い距離で背中合わせに触れ合っていたら心臓の鼓動が聞こえてしまうところだったのだ。タイミング良く外れた事を有り難く思いかごめは胸を撫で下ろした。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ