戦国
□天使の誘惑
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(つまんねえな・・・)
辺りで一番低い木の上で寝そべる犬夜叉は大層退屈だった。旅の合間の一休みである今は、犬夜叉を除き下で宴会の如く騒がしい。だがずっと独りだった犬夜叉にとってはそんな喧騒も愛おしかった。時々には彼の愛するかごめの弾んだ声も聞こえてきたりして頬が緩む。
「犬夜叉も降りておいでよ〜!!」
かごめの声が何度もかかっているが犬夜叉は応えない。
(わかってねぇヤツは気楽だよな。)
深く溜め息をついても吐ききれない思いがあった。実の所、犬夜叉はかごめから逃げてこの木の上にいるのだ。
(あんな顔されたら抑えられねぇ・・・)
かごめの上気したほんのり染まった頬に満面の笑み。犬夜叉の淡い理性を崩れさせることなど他愛もないことだった。と、その時。
「かごめちゃんっ!?」
珊瑚の上擦った声に犬夜叉は飛び起き、木から跳躍して降りる。
「どうした!?」
「犬夜叉、来ちゃダメだ!!!」
訳が分からない。何で危険から救おうとした自分が来てはいけないのか。だが瞬時にその理由を悟った。
「か、ごめ・・・・」
そこにはかごめと弥勒が熱烈な口づけを交わしていて、というかかごめが強引に唇を弥勒のそれに押し付けていて。珊瑚は真っ青になって口元を押さえ、七宝と雲母は酔い潰れたのか其処らに徳利とかかごめが持ち出した瓶と共に転がっていた。
「ん・・・」
二人の漏れた吐息で我に返った犬夜叉は取り敢えず腕を掴みかごめを弥勒から離す。
「かごめ!!何してんだ!?」
「何って見てわかるでしょぉ〜?」
「うっ・・・」
嗅ぎ慣れない酒の甘ったるい香が彼女から匂う。それはかごめ自身の甘いにおいと混じって犬夜叉を酔わせる。彼は朦朧としてくる意識をはっきりさせながら理性を保った。
「わかるわけねえだろ!?お前ちょっと来い!!!」
「あっ・・・ちょっと待ってよ〜!!」
千鳥足のかごめを肩に担ぎ、飛び去る前に立ち竦んでいる珊瑚を振り返った。
「珊瑚!!!弥勒を締めとけっ!!いいな!!??」
「あ、うん・・・はっ」
その言葉に珊瑚も我に返る。キリキリと目尻が吊り上がっていくのを見て弥勒は尻込みする。
「えっと、珊瑚?さっきのはかごめさまからですよ?しかしあの感触は・・・犬夜叉がうらやまし、」
「うるさい!!!」
ボカッ!!!!
珊瑚は目を回す弥勒を一瞥する。
「ふんっ!!乙女に唇奪われるなんて最低だよ!!!!」
「珊瑚ぉ〜・・・」
珊瑚は弥勒に冷たい視線をくれてやってから茶を啜った。