戦国

□緋色の焔
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山中を歩く少人数の男女の集団。
それは言わずと知れた宿敵、奈落の討伐を使命とした一行であった。

普段は先頭に立つのは一行一番の強さを誇る半妖の少年、犬夜叉。大体その隣にはそれほどの距離を置かずに異国から来たとされる少女かごめが歩く。

少女はよく少年に他愛ない話をし、少年は面倒臭そうな表情をしている。
しかしそれは照れ隠し以外の何物でもなく、少女が隣におらず後ろの仲間達と楽しそうに話し込んでいる時の激しく不機嫌な表情を見れば如実に物語られていた。

そんなこんなで旅をしていた彼らは今日も同じように並んで・・・・はいなかった。


「おい、かごめは?」

「あ、かごめちゃん?あんたの隣に・・・あれ」

「いないですねぇ」

「かごめぇ〜」


ずっと後ろから聞こえる子狐妖怪の声に皆が振り返った。彼はかごめの自転車の前籠に乗り、少女を按じていた。


「ごめんね、七宝ちゃん、みんな。ちょっと疲れちゃって・・・」

「いいよ!少し休む?」

「いいよ、悪いし。これじゃ今日は山を越えられないわ。みんな先に行ってて?」

「ですが、かごめさま・・・・・」

「大丈夫!この山には野盗や妖怪はいないみたいだし、すぐに追い付けるわ」


かごめはそう言って自信たっぷりに自転車のハンドルを叩いてみせた。
彼女の言葉に反発できる者は少ない。それは彼女が説得力と信頼を持っているからである。


「そう?じゃあ悪いけど先に行くね?」

「村で宿を探しておきますから」

「うんっ!ほら、七宝ちゃんも」

「じゃが・・・・」

「七宝ちゃんと私が二人きりじゃ犬夜叉がやきもち妬くから・・・ね?」

「・・・・うむ」


こっそりと耳打ちして七宝を納得させて笑顔で一行を見送った。次第に小さくなっていく影が最後に見えなくなるとかごめは留めていた息を盛大に吐き出した。

彼女が歩みに遅れを取っていたのは決して疲労からではない。疲労ならば身体を無理矢理に動かして着いて行っていたであろう。


「痛い・・・・」


数刻前、彼らは妖怪を退治していた。もちろんかごめも応戦していたわけだが、妖怪が吹っ飛ばしたささくれた木肌が彼女の膝から脛(すね)にかけて掠め、爪痕のように紅い筋を深く引いて散っていった。
故に少女は靴下で傷を隠しながら痛さを堪え歩いていたのである。


さすがの犬夜叉も布で隠しちゃえばわからなかったみたいね


それか・・・・・怪我してる私、めんどくさかった、のかな


何にも言わなかった・・・・


遅れて行く、と行った時こちらに顔すら向けなかった少年を思い出した。


怪我するようなのろまな女の相手なんてしてられねえ!とか言いそうだもんね


ったく、優しさの欠片もないったら・・・


でも、これは注意しなかった私が悪いんだもの


責められても・・・仕方がないよね


傷の痛みと心の痛みと。
疲れた身体が余計に惨めさを募らせてかごめは涙を溢した。
もっと強くなりたいと願えど平安な時代に育った自分には限界があった。その不甲斐なさが皆に迷惑を掛けている・・・それが悔しくて堪らなかった。


「もう・・・やだ」


抱えた両膝に顔を埋めて思い切り涙を流そうと思い、そのまま暫くスカートを濡らし続けていた。

ふと気が付いて顔を上げると先に行ったはずの少年が『お座り』の体勢でじっとこちらを睨んでいて彼女は目を見開いた。


「い、犬夜叉!?な、なんでここに?」

「あのな、おれが血のにおいに気付かねえとでも思ってんのか!」

「きゃっ」


まるで非難しているような小さな叫び声も無視して強引に足を伸ばさせて靴下を下げる。そこにはざっくりと大きな切傷と無数の小さな擦り傷が残されていた。


「ひでぇ・・・。・・・何で言わなかった」

「だって・・・みんなに迷惑かけたくなかった、し・・・犬夜叉怒ると思ったから・・・」

「怒るってなんだよ?」

「私みたいな転ける人めんどくさいって・・・あんたに見捨てられたくなかったもの・・・」


言え、とばかりに睨む金の瞳に急かされたかごめはしゅん、と肩を落として本心を告げた。



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