戦国
□緋色の焔
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こいつが怪我したことなんてその時から知ってた
けど何も言わずに笑顔なんか作ってやがるから無性に腹が立って何も言わなかった
なんで・・・言わねえんだ、と
言ってくれたらお前を背中でも何でも貸して・・・それがたとえおれの身体の一部をお前にやることになったとしても
腕だって何だって引きちぎっても助けてやりたいといつも思っていた
「あんたに嫌われたくないんだもの・・・」
その言葉を聞くまで苛立っていた少年の心は瞬時に静まり返った。頼られなかったわけではなく、そんなことよりも彼女が自分に嫌われたくないという思いから告げなかったのだと。
それをいじらしく伝える少女がとても可愛らしくて、そして足と心の傷を癒したかった。
「ちょっ、犬夜叉っ!?」
「黙ってろ」
かごめは突然の少年の行為に戸惑った。
事もあろうか彼は恥ずかしげもなくその傷に舌を這わせて舐め始めたのだ。耳に届く微かな水音に少女の顔が朱に染まっていく。
それが薬もない今、一番の治療法と言っても羞恥には勝てなかった。
「お、お・・・おすわりぃーっ!」
「ふぎゃ!」
言霊と共に盛大な爆音を立てて少年は地面にめり込んだ。かごめはその隙にささっと両腕で身体を隠す。
「てんめぇ〜・・・なにしやがる!」
「だっだって・・・!」
先ほどの犬夜叉を思い浮かべ、彼女はぼっとさらに顔を熱くした。
だって・・・あの時の犬夜叉・・・
眩い光を放つ飴色の瞳を伏せがちにして舌を手繰る表情にはいつものやんちゃな少年らしさは消え、青年の色を含んでいた。
その男の妖しげな艶に惹かれたのであるが、彼女にそれを素直に言える余裕はなかった。
「い、犬夜叉、舐め方がえっちなんだもん!」
「え、え・・・?」
「スケベっぽいってことよ!ばか!」
「なっ・・・・スケベっぽい舐め方ってどんなんだっ!フツーだろ!」
「フツーじゃないっ!いやらしいもの!」
「じゃあ一回おれにやって見せやがれ!」
「それがスケベって言ってんのよー!!!」
他人が見たらどんなに呆れ顔をすることか。中学生のような口喧嘩が一旦終息を見せ始めると犬夜叉は諦めたかのように溜め息を吐いてかごめを半ば強引に背に乗せた。
「ど、どこに行くのよ?」
「弥勒達んとこに決まってんだろ。帰ったらちゃんと手当してやる」
まだ、かごめには気が向かなかった。
心配させた挙句、怪我をしていたことを隠していたこと。どちらも仲間に告げるには重いし、結果として自分のために皆は休憩を取ることになるはずだ。
少年の背で揺られながら彼女の心は沈んでいった。
「あ、かごめじゃ!」
「かごめさま!犬夜叉が迎えに行ったのですね」
口々に仲間達が声を掛けてきたのを見て、かごめは意を決して口を開いた。
「あのねっ、」
「おう、おめーら今日はもう休むぞ」
「え?犬夜叉が休む、なんて珍しいね。どうしたんだい?」
「別にいいだろ。おれにもたまには休みてえ時だってある」
犬夜叉は有無を言わさず、といった雰囲気でかごめを背負ったまま一夜を過ごす場所を見付け、彼らにはそれぞれ休むようにさせた。珊瑚と弥勒は薪を探しに、七宝は散策へと出掛けてしまった。
二人きりになると彼はがさがさとかごめのリュックを探って見慣れた救急箱を取り出した。
「ほら足、出せ」
「いいわよ、自分でやるし・・・」
「いいから出せっつってんだよ!」
怒鳴り口調で言われたらば仕方がないとかごめは足を見せた。
よほどかごめにされているからか彼は滞りなく手当を行う。
「ねえ」
「あ?」
「なんで・・・さっき庇ってくれたの?」
「何でって・・・そりゃお前が責任感じるからに決まってんだろ」
「え?」
思いもよらない返事に少年の手元から顔へと視線を移した。それに気付くことなく犬夜叉は包帯を巻き続ける。
「無駄なことに気ぃ遣ってんじゃねえよ。誰もお前が怪我して休むからって責めやしねぇ」
「・・・・・」
「悪いのはお前を守れなかったおれだ。お前は悪くねぇ」
「でもっ!私が未熟だからっ・・・」
「・・・・お前は、かごめはそのままでいい。戦いなんかに慣れてほしくねえんだよ・・・」
その少年はどこか自分を責めている口調だった。
戦いになど身を置いてほしくないほど愛しい少女は四魂の玉を集めるには必ず必要となる存在。それが悔やまれる。
傷付けたくないのに、そうなる可能性の高い場所に置いている。
そして戦いの場に身を置く自分を癒してくれる少女を手放せないでいる自分。