チェックメイト

□第一章
1ページ/3ページ






豪華な定食屋さんのエレベーター式部屋から降りるとそこには秘密のアジトと言われても何も疑問を思わないほどの、薄暗い大きな部屋があった。
わたしは目を白黒させて、辺りを見渡す。
二回前は確かこんな秘密基地っぽいやつじゃなかったような気がするんですけどねえ。
キョロキョロと見渡して、二回前との共通点を探した。とはいえ、もう昔のことで、よくは覚えていない。既知感というものもない、ある意味で初めてのようなむず痒さが体を支配していた。――まあ、緊張感はこれっぽっちもありませんけどねえ。


「66番です」
「うおうっ」
「なくさないようにして下さい」
「お久しぶりです」
「……? お会いしたことありましたか?」


緑色のグリーンピースが足元にいた。きっちりとした服装は二回前と同じで、短足で身長は言っては悪いが伸びているようには見えない。二回前の会場で、わたしこの人に喧嘩売った筈なんですけどねえ。忘れ去られているとは虚しい。時は風化していくとはこういうことなんですかね。そう思いながら、まあしょうがないかと納得する。この人にとってわたしみたいな人間は羊の中にいる仔羊みたいなものなのだろう。区別は出来ないのはしょうがない、ちょっと悔しいですけどね。


「んにゃ、違いました。どうもすいません、知り合いのホワイトピースさんと間違えてしまいました」
「そうですか」


私的にはちょっと笑いを狙ったわけなのですが、まさかスルーとか。
でも気にしない。

バッチにしては大きい番号札を自分の胸元につける。
66番。
わたしの数字。


「よう、ここまで来るの大変だっただろう、オレはトンパよろしくな」
「……おおう」

二回前の参加者の人じゃないか。丸々と太った豚みたいなお腹をはち切れんばかりに前に突き出して、挨拶してきたことを今でも覚えている。そのお腹は引っ込んでスマートになっていたため、少し認識するのに時間がかかったけど、顔の形は全く変わっていない。
確か『新人潰しのトンパ』と人々が口々にもらしていたっけ。

「やあですよお、そんな他人行儀は止めましょうよ、トンパさん」
「……? 新人じゃ、ない?」
「わたし、二回前に一回参加させて貰ったものですよお、覚えていません?」
「こんなやつ居たか……? …………、………。………………! その目の色、もしかして」
「えへ、よろしくお願いしますね、イケメントンパさん」
「なんでまたお前がここに」
「うふふ、ハンターになりたかったからですよお」

韜晦にみせて、ニヒリと微笑むと苦虫を噛み潰した顔が拝めた。
嬉々としてそれを見て、口角を緩める。とはいえ、この人を怒らせるようなことはしない。なるべく敵は作らないようにがわたしのモットーだ。


「トンパさんトンパさん、一つこんな可愛い女の子お願い聞いてくれませんか」
「はあ?」
「今回は何分一人参加なもので、どうにも心もとないんですよね、だから経験豊富なトンパさんに情報を提供して貰おうかなーって」
「そういやあんた、前は連れがいたな」
「やあですよお、勘繰らないで下さい」


やんわりと返答を拒否するとトンパさんは体に手を宛てて熟考したあと、こう言う。


「……まあいいぜ、だが条件がある。試験中はオレを殺さないでくれ」
「殺すだなんて物騒なことしませんよお、それにトンパさんの方が大人で力が強いじゃないですか。……でも、いいですよ? もしトンパさんが足を沼に絡めとられて身動きがとれなくなって、今殺せば誰に非難されることもなく抹殺出来ると思っても殺したりしませんから」


だから、早く情報を下さいと急かすとトンパさんは困った顔をしてわたしを見る。ああ、そうだ何の情報が欲しいか指定していなかった。

「今回ここにいる中でトンパさんを含めてわたしのことを知っている人間ってどのくらいいます?」
「そんなにはいねェよ、只でさえあの試験は第四試験まで進んだ奴が少なかったんだ、第三試験終わりまで普通を装っていたお前を殆どの奴が記憶に止めてねェよ」
「それはよかったです、顔がわれていたら何かと動きにくいですからねえ。じゃああと一問、わたしより前の人間で危険だなあってやついます?」
「そんなの気にするのかよ」
「今回は一人ですからねえ、どうにも残れるかどうか分からないんですよお、でも危険だなって人に警戒していたら少しでも勝率が上がりそうじゃないですか」


勿論そんな理由ではない、避けるなんて真っ平だ。警戒するなんて軽率だ。危険だという人、そんな人のことをほうっておく道理なんて、これっぽっちもない。


危険ならば油断しよう
恐ろしいならば笑ってみせよう
怖いならば追い掛けてみせよう
強いのならば―――殺してしまおう


「ヒソカ、アイツには気をつけな」
「ヒソカさん、ですか?」
「去年の試験で合格確実、そう言われながら気に入らないという理由で試験官を半殺しに失格した男だよ、あんただったら気が合うんじゃねェの?」
「いえいえまさか、気なんか合えませんよ、寧ろどこら辺が合えるかが聞きたいぐらいですよお」

口にした言葉とは裏腹にわたしはその人と明らかに気が合うと直感した。わたしとその人は行動が凄く似ている、理由さえ除けば同じだと指を指されて笑われ兼ねないだろう。

――わたしも、試験官を殺しちゃいましたからねえ。
二回前――二年前の話しですけど。

重畳。重畳。


「ありがとうございました、トンパさん。それではお互い頑張りましょうね!」

トンパさんと手を降って別れる。
さてと、そのヒソカさんという人をこっそり探しながらご飯でも食べようかな。
そう思い、角に座り込んで、お弁当を広げた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ