チェックメイト

□第四章
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殺すことに一家言あっても、食べることに拘りはない。食事というのは楽しめさえすれば、それだけでいいのだから。とはいえ、食べ物に関心がないかと言われればそれは否だ。食べることに執着はないけれど、食べ物には執着がある。人並みにはですけど。





「昔、昔のことなんですけどね、お兄ちゃんが言っていたんです。料理を食べるのは好きだけど、作るのは嫌いだって。わたし、今ならそれが分かる気がします。他人に、しかもさっき会った見知らぬ他人に作るのは結構な嫌悪感が生まれますねえ」


そんなわけでわたしとヒソカさんは第二次試験の一回目の男性の要望、豚の丸焼きを完遂する為にビスカの森に生息する豚を探していた。森の中を野獣を探し回るのは狩人のようなものだが、いかんせんピエロのような格好と、制服とでは迷い子二人というイメージを会った人に与えそうだ。
まあ、胸につけられた大きなナンバーのお陰で受験生には間違いられそうにはないけれど。


「僕としては相手につくる、よりも相手に作られるというほうが嫌悪感を抱くものだと思うよ?」

「そうでしょうか。わたしが見る限りあの女の人は他人に作らせるのが当たり前って感じですけどねえ」
「僕たちがまず満足させないといけないのは男のほうだろう」


そういいながらも殺気を押し留められないヒソカさんに苦笑するしかない。鋭い細い殺気を試験官さんに向けるってどういう神経してるんですかねえ。ビリビリとした雰囲気を作り出したいのならば止めて欲しいんですけど。

ヒソカさんと共にいるからわたしにもそのビリビリ、というかピリピリというか、その手の視線を向けられる。今回はなるだけいい子いい子でいきたいので睨まれるのは勘弁して欲しいところだ


「というかですよお。あの男の人は豚の丸焼きだけでオッケーそうですけど、女の人はそうもいかなさそうじゃないですか。あれは絶対に見た目や味重視の人ですよお、『美食』ってところを強調していましたし、あれは自分の中に確固たる掟とか心情とか、信条とかそんなの持っているタイプですねえ」
「食べ物なんて食べれればなんでもいいだろうにね」
「同じくです、材料が変なものでもない限りなんでもいいと思いますよお」
「ちなみに豚の丸焼きってしたことある?」
「あったらわたしはどんな野生で生活していたんですかね」


ちゃんと切ってから焼いてました。

木を飛び越えて、豚を探す。見た目が豚な野生動物、かあ。


「……あれ」


ヒソカさんに伝えるように指差す。そこには体長二メートルはあるばかりの豚。伸びた鼻は頑丈そうな形をしていて、どうみても戦闘向きの出で立ちだ。


「あれだね」
「いやいや、ヒソカさん。あれは違いますよ、世界的文化なんてらで保護されて隔離させるべきはずの獰猛な生物の一つですって、あんなん普通の人には取れませんから」

「僕たちはハンターになろうというんだから、あれぐらいは当然なんじゃないかな」
「いやいやいや、ハンターっていう仕事を誤解してますって、これ、プロのハンターに任されるべき生物ですよ」
「つべこべ言わずにとったほうがいいと思うよ。時間がない」


ヒソカさんはそういって豚に襲いかかっていく、背中に羽でも生やしているのではなかろうかと言わんばかりの軽やかな動きで、カードを投げつけ豚の上に乗る。わたしには出来ない芸当だ。どうしたものですかねえ。

ハサミを取り出す。絶ちきりハサミ。それを上下に動かして―――ジャキン、ジャキンと音を立てる。
超近距離にしか威力を発揮しないこのハサミでどうできますかねえ、胸の前で構えて、地面を蹴り上げた。






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