チェックメイト

□第八章
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「うひゃあ、生首ですねえ」
「生首だね」
「血が滴りおちてますよお。流石に刃物じゃあ血は落ちますよねえ」
「というかこの刃物、磨がれてるのにこの試験官の血で錆びちゃうんだけど」
「刃物の手入れってめんどくさいですからねえ、すぐ血を払わないとすぐに切れ味悪くなっちゃいますし。わたしに貸して下さい。磨ぎますよお」
「君磨げるんだ」
「はい、一応は」

刃物を投げ渡してきたヒソカさんは自分の血を舐めとると、先へと足を進めた。クルクルと円を描くように回る刃物の取っ手を掴み、ちゃんと見ようと眼前に持ってくると、ガクリと肩が揺れた。

「って、重いっ。うわ、うわっ」


持っていた刃物を足元近くに落としてしまった。腕がいきなり軽くなったのにびっくりしてか、少し震えている。


「……なにやってるの」
「わたしが訊きたいです、よくこんなの持てましたね、何キロあるか分かりませんけど、あの巨体だからこそ持てた武器じゃないですか! か弱い乙女には持てない代物ですよこれ!」
「いや、僕も持てたし、それに君こんなんで根を上げるの? 殺人鬼なのに貧弱過ぎない?」
「いざとなればそこらへんに転がっているブロック塀でも投げて殺すから大丈夫です。大体ですよお、鋏に腕力とか関係ないじゃないですか」
「豚は持てたのにね」
「豚と刃物は全くの別物です」
「豚の方が重かっただろ、絶対に」

いや確かに重かったですけどね。
刃物とはまた別というか。全身を使って持つのとはまた別と言いますか。

「この刃物――ナイフですか? ナイフ、わたしじゃあ磨げませんねえ」
「なんで?」
「わたしの鋏よりも強度が高いんですよお。磨いだら逆にわたしの鋏の方が傷むんです」
「なんで鋏で磨ぐんだよ……」
「磨ぎやすいんですよお。勿論専用の磨ぎ器を使った方が安心なんですけどねえ、でも態々使った後に磨いでたらキリがないので、鋏同士で磨ぐようにしてるんです。ヒソカさんは血払いだけでいいから羨ましいですよお」
「なかなかカードを使うことはないんだけどね」


まあ今回の戦いも確かにカード使ってませんでしたからねえ。
生首を見る。この人はヒソカさんが去年殺り損ねた試験官さんだったらしい。説明もされずに始まった戦いに疎外感を感じつつ、見続けていたけれど、蓋を開けてみればヒソカさんの余裕勝ちだった。去年の復讐なんかしなければより良い人生を送れていただろうに、もったいないですよねえ。


「ていうか、なんで他人の武器を磨こうってなったんですか?」
「ノリ?」
「敵のですよお?」
「ほら、ノリだよ」
「ほらって言われてもわたしはノリで武器とか磨ぎませんよお」

呆れの息を吐き出すと、ヒソカさんはどうでも良さそうに大股で扉へと向かった。素晴らしいスルースキルですねえ、そこに痺れる憧れるう……。なんちゃって。

唇の中に入れていたガムを飲み込むと、パチリパチリと瞼を瞬かせて曖昧に笑ってみせた。監視カメラとかなかったら痛い人ですけどね。あることを願いましょう。

生首の前にクッキーを置いて、手向けにしてみる。口をがばりとカバみたいに開けっ放しにしている試験官さん、全く知らないその人の切断された胴体の方を踏みつけて、ヒソカさんの後を追いかけた。



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