Omnivorous

□相手のいないバレンタイン
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シンシンと雪が降る。
沖田ミツバが細い指を止めて窓の外を見ると、銀世界になおも降り続ける白い粉雪。
とても静かで無音が辺りを包んでいる。

「あら〜、これじゃあ雪かきが大変ねぇ。」

困ったように少し笑って、彼女は再び作業を始めた。
手作りのチョコレートを一つ一つラッピングしてゆく。
大量に作られたチョコレートも、最後の仕上げまであと少し。
近年、恒例行事のように作る大量のチョコレート。
味は甘さ控えめのビター味。

「よし、可愛い。」

ミツバは満足そうに笑って次のラッピングにうつる。
弟の総悟を含め、彼等が武州を離れてから天人がもたらしたバレンタインデー。
もう少し早く知ることができたら一度はこのチョコレート達にも行き場があったはずなのに。
いまだ、人の手に渡った事のないチョコレート達。

時折新聞で見る彼等は元気そうで、それが嬉しい。
楽しくやっているのね。
夢が叶ったのね。
そう思える事が嬉しい。
それを見れた日はとても幸せになれるから、毎日新聞を端から端までチェックする。

「………………。」

そして記事の内容から、同時に危険な仕事なんだと思い知る。
毎日仏壇に手を合わせ、大切な人達の無事を願う。
風邪ひいてない?
ご飯はちゃんと食べてる?
喧嘩はしてない?
怪我はしてない?

どうか、



神様がいるのなら



あの人達を護ってください。



どこまでも純粋でまっすぐなあなた達が、いつまでもまっすぐ進めるように護ってください。




――――――そして







そしてあの人を








どうか、






どうか護ってください。




「………………次で、最後。」

他と変わらない最後のラッピングにミツバは一際丁寧にとりかかった。
風になびく、黒髪を瞼に浮かべて。
ひたむきに木刀をふる、姿を脳裏に浮かべて。
まっすぐ前を見る、強い瞳を胸に浮かべて。

食べる時はどうかマヨネーズはかけないでおいてくださいね。
甘過ぎたら言ってくださいね、そうしたら来年はもっと甘さ控え目にしますから。
優しいあなたの事だから、くれぐれも我慢して食べないでくださいね。

茶色い四センチ四方の箱にピンク色のリボンをキュッと結べば出来上がり。
行き場のない贈り物の出来上がり。

「フフ、今年も上出来。」

テーブルにいい子に並ぶチョコレート。
それがこんなに愛しく思えるのは、その先にある人達の暖かさを知っているから。
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