Thank

□坂田独白
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[坂田独白]

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人間って不思議だ。


きっとそれを数えるときりがない。
自分自身、己の種だというのに、こんなにずっと一緒にいて、むしろ自分が人間なのに。
わからない事や知らない事が無限にある。
未知だ未知。
その一つに『なんで人は好きな人ができるんだろう』って事がある。
種を残す為なら必要ねぇじゃん。
適当にヤって子孫を繁栄させりゃいいじゃん。
なのに人は人を好きになって『その人の子供が欲しく』なる。
そいつが好きだからだ。
子孫を残したいんじゃなくて、単純に、そいつが好きだからだ。
基本的には皆そうだろ。
不思議な事に、ちゃんと人は人を好きになるんだ。
誰に強制される事なく、好きになる。
そうなるとさらに不思議だ。
そいつの事ばっかり考えちまう。
愛しくて、会いたくて、隙があれば誰かとソイツの話がしたくなる。
だからってベラベラ話したりしねぇけどな。
むしろ堅く黙ってしまう奴もいるし……アイツみたいに。
あ。
ほら、思考がこうやって無意識に繋がるんだ。
話す話さないは別にして、好きな奴の話をするのは楽しい。
なんでだろうな。
楽しいんだ、すごく。
この前歩いてるのみかけたとか、そんなどーでもいい事ですら口にすると楽しい。
マヨネーズを食べる様が気持ち悪いとか、目付き悪いとか、煙草吸いすぎとか、悪口すら楽しい。
悪口言って暖かい気分になるって普通じゃねーだろ、どういう事だおい。
あとアレ、一生懸命な姿が好きだ。
頑張ってる姿を見ると愛しくなる。
仕事ばかりでないがしろにされるのは嫌だけど応援したくなる。
なんなら支えたくなってくる。

――――きっと、その一生懸命な姿に皆惚れちまったんだろうなぁ。

脇目もふらずに頑張るから、あの背中についていきたくなるのだ。
頑張ってる奴の元に人は集まる。
すごい吸引力を持って引き寄せられる。
始めはたった数人で描いた夢だって、その姿が輝いて見えて手を貸したくなってきて、一人、また一人と仲間が増えてきたんだ。
そしてただの妄想が現実になって、夢を叶えた。
いつの間にかたくさんの仲間ができて。
正直妬ける。
妬けるよ、ホントに。
でも同時に眩しいくらいの魅力を感じるんだ。
もちろん仲間が増えれば問題や苦しさだって増える。
それも以前に比べれば余程高い壁になって。
その壁を前にして苦しんでいる姿を見ているのはやっぱり辛い。
でもあいつは絶対に逃げないから。
逃げるなんて微塵も考えない。
『どうすればいい、どうすれば越えられる。』
そればっかり考えて、何度も体当たりして、うまくいかなければ傷がつく。
そして再び挑んでいく。
アイツは止まらない。
引き返さない。
どんなに傷付いたって平気な顔をして前を見てる。
そんなアイツだから皆ついて行ってんだろうなって考える。
絶対に弱気なところは見せないもんな。
でも、ここだけの話。
たまぁにアイツは俺の所に甘えにくる。
本人も自覚ないだろうけど。
けして弱音を吐いたりはしねぇが、肩肘を張る姿がどことなく不自然で何も言わなくてもわかっちまうんだよなぁ。
そうすると俺は更に惚れてしまうわけだ。
『あぁ、今こいつ弱ってんな』
とか感じると、なんとかして背中を支えてやりたくなる。
必死に凛と立とうとする姿が不謹慎だけど、可愛いななんて思ってしまう。
俺の存在が支えになってるかはわからねぇが、自惚れてもいいんじゃねぇかなくらいには思ってる。

そしてアイツは壁を越えて、また一段と魅力的になるんだ。
止まる事を知らない怖い奴だ。
これ以上惚れたらどうしてくれる。
惚れるってなぁ楽しいだけじゃすまされないんだぞ。
人の気も知らないで迷惑な奴だ。

ピンポーン

「おー、やっと来たか。」

銀時は読んでいたジャンプをテーブルの上へと放ってソファーから立ち上がった。
その短い間にも呼び出し鈴が5回鳴る。

「せっかちな奴だなぁ。」




―――――人間は不思議だ。


子孫繁栄を思うなら、こんな感情はないに越した事はない。




でも、俺は




「久しぶり、会いたかったよ。」

「俺はそんなでもなかったけどな。」

玄関の扉を開けると、黒の着流しを着た男が立っていた。
銀時はしかめっ面を作る男を中に招き入れる。

「暑かったろ、麦茶冷えてるぜ。」






ヒトを好きになれて幸せを感じている。







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