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□すとろんぐ ゆー
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土方十四郎という男を『強い』と思った。




たまにふと、墓参りでも行くかな。なんて気分になって、銀時はその日もたまたま思い当たり、ばあさんの旦那の墓参りに行く事にした。
万事屋の下に住む家主の妖怪ばばあには世話になってるからな、ないがしろにしてっとバチがあたりそうだし(けして家賃が払えないからご機嫌とりをしようとしているわけではない)。
どんな理由だろうと墓参りはいいことだとふとした思い付きにそんな言い訳じみた事を考え、掃除して線香くらいあげてくっかと、晴れ渡る空の下で寒さに身を震わせながら来てみれば、目的の墓の近所で見覚えのある男が立っていた。
手を合わせるその姿はいつもの隊服は着ていないものの、着流し姿の鬼の副長、土方十四郎その人に他ならない。

(変な所で会うもんだな)

町中でたまたま会うくらいにしか面識のない男だが、会えば喧嘩しかしていない気がする。
それなのになぜか男に会うと話しかけずにはいられなくて、事ある事にちょっかいをだしていた。
喧嘩なんて面倒臭い事極まりない。
そう思うのに戯れのようにその喧嘩を楽しむ自分には、なんとなく気づいていた。
それがなぜかなど言及した事はないし、それどころか見て見ぬふりをしたりしている。
こんな所で喧嘩なんて不粋な真似はしまいと思いながらも、銀時は今回もその衝動のままに手を合わせ終えた土方に声をかけた。

「よぉ、お前も人の心が残ってんだな」

喧嘩なんて不粋な真似とか思いつつ、口をついて出たのは不粋としか言いようがない言葉が飛び出る。
突然話しかけられた土方は驚いたような仕草を見せたあと、あからさまに眉をひそめた。
あ、やべ、怒らせた。
銀時がそう思った否や、土方は「そうだな」と答えると水のはった桶を手に取ってその場を離れようと踵を返す。

「おい、ちょっと待て」

その予想外な反応に銀時は慌てて土方を呼び止めた。

「なんだよ」

「いや、なんだよって。なんかねぇの?人をなんだと思ってやがるとか、失礼な野郎だなとか」

「人をなんだと思ってやがる」

「いやいや、言えってわけじゃなくて。そんな鸚鵡返しに言われても逆に困るし」

「あ?なんだよてめぇ、なにがしてぇんだ」

「なにがしてぇんだって聞かれてもよ……」

お前と喧嘩がしたくて。
なんて心の奥で感じているそれを言えるわけもなく。

「ていうか副長さんは今日非番なわけ?」

「見りゃわかるだろ」

「私服パトロールかもしれねぇだろ」

「だとしても人気のねぇ墓に来ねぇよ」

確かに。
いやしかしいちいち勘に触る言い方をする奴だ。
一瞬肩透かしをくらった気分になったが、いつもと土方だと銀時はそこはかとなく満足感を感じた。

「休みに一人で墓参りとはなぁ、友達いねぇの」

「はぁ?そんなのてめぇに関係ねぇだろ」

「なんなら銀さんが一人ぼっちで可哀想な副長さんと一緒にいてあげようか」

「なっ……」

(あれ)

てっきり怒鳴り返されるかと思ったが、これまた予想に反して、土方は口をパクパクさせた。
寒さで赤くなっている頬がより朱を濃くさせたように見えるのは気のせいだろうか。
それとも怒りで声もでない…

(ほどの事も言ってねぇよな)

あ、まさか。

「あれ、まさか本気にした?なにお前、銀さんと一緒にいてぇの?」

「ばっ、馬鹿か!そんなわけあるか!俺は今すぐにでもテメェに消えてほしいくれぇだよ!」

「え〜、慌てちゃって逆に怪しい〜」

「気色悪ぃこと言うんじゃねぇよ、どこをどう見たらそう見えるんだ!それに俺は行くところがあんだよ!」

「おいおい、無理して友達いますアピールしなくていいぜ」

「そんなのしてねぇよ。まだ墓参りに周りきってねぇんだ」

「なに、まだ行くの墓参り」

「あと五ヶ所」

「ご…多いな…」

「多くねぇ。行けるならあともう何ヵ所か行きてぇんだ」

「休みを全部墓参りで使う気か」

「いや、刀鍛冶と漢方も見に行く」

「漢方?お前どっか悪ぃのか」

「屯所は集団生活だからな。一人体調崩すとそれが蔓延しかねねぇ。手を打てるものがありゃ、そっちの知識も持っておきてぇからよ」

「ふーん…」

「………なんだよ」

「いや、お前って本当に真選組馬鹿なんだなって」

「てめぇにしちゃたまにはいいことも言うじゃねぇか」

「誉めてねぇよ」

そう否定しても土方にはもう会話を続けるつもりがないのか、「じゃあな」と打ち切り今度こそ墓を後にしてしまった。
残された銀時の胸に、なぜかしこりのようなものが残る。
しかしその原因は特に思い当たらず、気のせいと思い気にしない事にした。

「そういや、これ誰だ」
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