Thank

□ゆったりまったり
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―――――SS






〜ゆったりまったり〜








「ん。」

「あ?」

いつものように非番を利用して万事屋にやってきた土方がソファーに座っていると、目の前に立った銀時がズイっと何かを差し出した。
13cmほどの細長い棒に片方、フサフサした綿がついているもの。

「なんだよコレ。」

「耳掻き。」

「いやそんなのはわかる。別にくれなんて頼んでねぇけど。」

憮然と答える土方に、銀時はなおもズイっと耳掻きを差し出した。

「俺に耳掻きをしてくれ。」

「……誰が。」

「土方が。」

「誰に。」

「俺に。」

「なんで俺がしてやらなくちゃいけねぇんだよ。」

「いーじゃんやってよ。やってくれよ、彼女だろ。」

「っだ、誰が彼女だコラァッ!」

銀時の彼女発言に土方は瞬時に顔を朱に染めて声を荒げた。
確かに情事では女役の土方だが、彼女の立場に収まったつもりなど毛頭ない。
むしろ流れだとしても女役なだけにその手の事には酷く敏感になっている。

「おいテメェ、いい加減にしろよクソ天パァァ!」

「ちょ、怒る事なくね?!」

「うるせぇ馬鹿ボケ、アホっ!その不感症な極太神経にゃデリカシーや気遣いはねぇのか!」

「耳掻きしてほしいって言っただけじゃん!なんだよ、それくらいしてくれてもいいだろうがケチッ!!」

「耳掻きの話をしてるんじゃねぇぇ!」

「はぁぁ?!今は耳掻きの話しかしてねぇだろうがっ!しろよ耳掻き!してくれよぉぉぉ!」

「お前耳掻きから離れろや、どんだけ耳掻きして欲しいんだよっ!どんだけたまってんだよ!」

「溜まり具合なら常に土方を押し倒したいくらいに決まってるだろうがぶべはっ!!」

「下の話はしてねぇ!」

だんだん何について怒鳴りあっているのかもわからなくなった土方の右拳が、銀時の顔面にめり込んだ。

「いてーな!お前は手が早すぎるだろうがっ!!」

「うるせぇ天パ。」

フンと鼻を鳴らす土方に理不尽さを感じつつも「チクショー」と漏らしながら銀時は土方の隣に腰かける。
ソファーがその重みにギシリと鳴った。

「ちぇー、どんなモンか試したかったのによぉ。」

手のなかで出番を失いそうな耳掻きをいじりがら、銀時はポツリと呟く。

「…………お前、やってもらった事ねぇの?」

「あ?まぁな。」

「そうか…。」

何かを思った土方には気づかずに、銀時は耳掻きに目を落とす。

(なんで耳掻きくらいやってくれねぇんだ、んな怒る事か?仕方ねぇ、また違う手を考えてねだってみるかな。)

そして土方の沸点を全くわからずに全く的外れな事を考えていた。
あきらめ気分で耳掻きをクルンと回して耳の中に入れたその時…。

「やってやるよ。」

「…え?」

耳掻きの代わりに思いもよらない言葉が耳に飛び込んだ。
その言葉を発したと思われる土方を見ると、テーブルに手をのばしてティッシュを一枚広げている。

「ほらよ。」

そう言って自分の膝をポンと叩く。
土方の気持ちの変化がまったく理解できない銀時は目をパチクリさせた。

「ま、マジでか…?」

「嫌ならやめるか。」

「嫌なんてまったく言ってねぇ!ぜひお願いします、ぜひとも!」

「ぅわっ。」

気が変わっては堪らないと慌てて膝に頭をのせて、剥がされないように着流しをしっかと掴む。

(よくわからねぇけどラッキィ!)

「こっち向くな。あっち向け。」

「え、こっちのがよくね?」

「いいわけあるかっ。やってやらねぇぞ!」

その言葉に銀時は渋々と向きを変える。
目の前にあった土方のお腹から、見慣れた万事屋の風景に変わった。

(ちぇ。)

残念だ。
非常に残念だがここは仕方がない。

(まぁよしとするか。)

「動くなよ。」

心地よい低い声がしたと思ったら、土方に受け継がれた耳掻きの棒がソッと中に入ってきた。

「おぉ。鼓膜に気をつけてくれな。」

「テメェが馬鹿やらなけりゃ無事は保証してやる。」

奥に、カリっと何かがあたった。
その初めての感覚に銀時は自然と意識を集中する。
直接鼓膜に響く雑音と初めて人に触れられる場所。
少し耳を引っ張る手に、頬にあたる硬い腿。

「…なんだコレ、滅茶苦茶気持ちいいな。」

いつもと違う土方の優しい手つき。
たまにフッと吹き掛けられる息。
そしてカリカリと耳を掻かれる気持ちよさに、銀時の意識は次第にトロンとしていった。
鼻腔をくすぐる苦い匂いにも心が安らぐ。

「すげぇいい。」

「……そうかよ。」

(あ〜、幸せ。)


end.100228
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