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□立場でなんか変わらないもんね
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急かすように、まだ幼いあいつを『大人』にしたてようとした



全て、俺のエゴで






―――――――――――





「沖田副長、いい加減にしてください。」

「あー?」

「あーじゃなくて、書類ほっぽって何やってるんですか。今すぐ戻って仕事に戻ってもらわないと困ります!」

「土方お前空気読め。今いいところなのがわからねぇのか」

「おい黒髪の兄ちゃん、沖田あんちゃんを今すぐ連れ帰ってくれてもいいぜ」

「おいガキ、自分の立場が危ういからって何言ってやがる。そりゃよ」

「あーーーーー!!」

気の抜けた掛け声と共に沖田から放たれたメンコは、地面に散らばった数枚のメンコをヒラリとひっくり返す。
同時に一緒にいた三人のチビッ子が絶叫した。
沖田はそれがさも愉快とばかりにニヤリと口角を上げ、反対にこの男を捜しに来た土方のこめかみに血管がプクリと浮き出る。

「おーラッキー。これ貰って行くぜぃ」

「あぁぁ!やめてくれそれレア物のメンコォォォ!!」

「往生際が悪いなぁ。男なら二言はねぇだろ。時には諦めも肝心でい」

「うっうっ…畜生〜〜俺のメンコっ…」

「俺に勝ちたかったらもっと腕を磨いてくるこったな。」

「必ずリベンジして、それは返してもらうからな!覚えてろ!!」

「へーへー早くしねぇと忘れるかもしれねぇよ」

「いっ…いい加減にしろぉぉぉ!!」

しばらく沖田とチビッ子のやり取りを静観していた土方は、ついに痺れを切らしたかのように絶叫した。
怒鳴られたのは沖田だが、当の本人はシレッとしていてチビッ子がビクリと肩を跳ねさせる。

「大人げねぇ!マジで大人げねぇ!!貴方はガキ相手に恥ずかしくないんですかっ。メンコはガキに返してください!」

「これは神聖な勝負で手にいれたんでい。男と男の約束に口出すな土方コノヤロー」

「年の差!この年の差は明らかにフェアじゃないですよね!いいからやめてください頼むから、せめて節度ある大人の振る舞いしてくださいよ!」

「く、黒髪の兄ちゃん…お、俺達はだいじょ…」

「あ゛あ!?」

「ナンデモナイデス」

土方の怒声に驚き戦いたチビッ子が気を利かすが、土方はギロリと睨んでそれを一蹴した。
その目付きといったら、大人の男だって身を縮まらせる事だろう。
しかし本人はけして睨んでいるつもりではないのを名誉の為に記しておく。
業務そっちのけで姿をくらました副長を捜しに出かけるのは最早土方隊長の日課だ。
隊長である土方がやる事ではないが、沖田の失踪先はまさに様々。
河や山や屋根の上で昼寝を貪っていたり、今日のように町の隅で近所の子供と遊んでいる時もある。
つまり他の人間では見つけられないのだ。
その点土方は勘かなんなのか必ず見つけ出す事ができる。
曰く

『沖田さんの行きそうな場所?そんなのちょっと考えればわかるだろ』

らしいが、普通わからない。
よしんば見つけられても連れ帰るなんて局長の近藤と土方以外には無理だ。
こう毎日抜けだされてはどんな聖人でもストレスを感じるだろう。
そんなわけですっかりお目付け役になってしまった土方の沸点が低くなってしまったのも頷ける。

「行きますよ、屯所に戻って溜まった仕事をやっていただきますからね。」

「ったく、毎日毎日飽きずにわいて出てきやがって。面倒くせぇ野郎でい」

「その言葉をそのままお返ししてよろしいでしょうか。」

沖田はため息を一つついて、戦利品のメンコをポイとチビッ子の足元へ放った。
驚いたチビッ子の目がクリンと丸くなる。

「え?」

「うるせぇのに見つかっちまったからな。また奪いに来るからそれまで誰にも取られんじゃねぇぞ」

「だから子供相手にやめてくださいって言ってるじゃないですか。」

「細かい事をネチネチと。」

「細かくないです。」

「沖田のあんちゃん!」

背中を向けて歩き出すと、後ろから高い子供の声が上がる。
沖田が首だけで振り向くと、チビッ子が一端の男の眼でこちらを見据えていた。
木枯らしが舞って、栗色の髪が風に揺れる。

「次は負けねぇからな!あんちゃんのメンコ奪ってやる!」

沖田はそれに片手を上げて答えた。
土方はその口元に浮かんだ喜色を見て、まだまだ苦労させられそうだと一人ごちる。
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