short 2

□君ヲ想フ・結末
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「うぅ〜寒い」

そう呟いた地味で眼鏡の少年、新八は白い息をホウと吐き出した。
ぬけるような青空に風が吹き、マフラーに首をすくめるそばからその隙間を目ざとく見つけては撫でて行く。
冬の朝は凍えるように寒い。
耳の先や鼻の頭は特に冷える。新八は人の合間を縫って慣れた道を急いだ。
走ってゆく車が羨ましい。
あんなものはまだ一般人には到底手のでない高級な代物だ。
今の万事屋稼業に勤めている限り、天変地異が起きるほどのことがなければ、まず手に入る事はないだろう。
買えてスクーター。
しかしスクーターで冬の寒空の下を疾走するのはあまりに寒い。
早足に歩けば見慣れたテナントが見えてくる。
早く暖をとりたくて、新八は万事屋へと続く階段をかけ上った。

「おはようございまーす」

ガラガラと戸を開けて返事がないのはいつものこと。
自分はかまわないが、しかしこれが客だったらどうするつもりなのだ。

「あぁ〜寒い寒い……って、さむぅ!!!」

「よ〜新八、おはよーさん」

「おはようさんじゃないですよ!てかさっむ!暖房は?暖房は入れないんですか!?」

「これだから今時の若者は軟弱になるんだよ。なんでもカラクリに頼って体が弱る。嫌だねー、少しは自分の力でなんとかしろっての」

「布団を体に巻き付けながら何言ってやがる!」

期待して足を踏み入れた場所は外と同じく極寒の寒さだった。
部屋の中では布団にくるまって寒さをしのぐ銀時と神楽がソファーに座っている。

「新八ぃ、なにか暖かい食べ物が食べたいネ。何か作ってくるヨロシ。」

「銀さんの分も」

「お前らそこから動きたくないんだろ。台所に立つのが寒いから人に押し付けるのやめてくれませんか。」

「何を言うネ!私はタダ新八の心のこもった料理で心も体も暖まりたかっただけネ!私を暖められるのは新八、お前しかいないアルヨ!」

「頭まで胃袋のくせに口だけは達者になったね神楽ちゃん。まったく誰に似たんだか…」

時計は八時を回ったところだが、こうしてゆったりしているところを見るとどうやら今日も仕事がないらしい。
すっかり閑古鳥が鳴いている。
暖房もつけられないくらい、経営は火の車だ。

「こうしていても仕方ないでしょう、仕事の一つや二つとってきてくださいよ。」

「バカヤローそんな簡単にとってこれるなら、こんな寒い思いしてないだろ。」

「なら尚更努力してください!こんなところで布団にくるまって仕事がもらえるほど世間の不況の波は甘くないんですからね!」

「じゃあお前が行ってこい。道端に立って勧誘してこい。」

「あんたが経営者でしょうが、そのくらいの努力してくださいよ。」

「雇い主の言うことが聞けねぇのか!」

「だったら給料寄越せこのマダオが!」

「よし、神楽行ってこい!」

「寒いから嫌ネ。私も給料くれたら考えてやるネ。」

「お、お前らぁ〜……!」

言うことを聞かない従業員二人に銀時は奥歯をギシリと鳴らした。
もうすっかり大人の威厳も雇い主の威厳も0である。

「ほら銀さん。いつまでも寒い思いしたくないなら仕事です!」

「わかった、よし、ここはジャンケンにしよう。」

「………………。」

あまりの諦めの悪さに、新八のコメカミにぷくりと血管が浮き出た。
浮かべているのは笑顔でも眼鏡の奥にある目はちっとも笑っていない。

「俺達仲良し万事屋一家は公平にジャンケンだろ。ほらやるぞ、手ぇだせお前ら。ジャーンケーン…」

「このっ……糖尿寸前駄目天パがぁぁぁぁ!大体あんたが体たらくだからいけないんでしょうが!『いい仕事が入った』とか言ってフラリと消えたかと思ったら銭も持たずに怪我だけこさえて帰ってきやがって!」

「ちょ、落ち着けしんぱ…」

「あんたの怪我にいくらかかったと思うんですか!それがうちの財布を圧迫してるってのに、あれからこっち二週間収益0ですよゼロォォォォ!そりゃ怪我がある程度治るまでは辛抱してましたけどね、最近は全くの怠慢でしょうが、もういい加減にしてください!!」

新八のあまりの剣幕と勢いに、さすがの銀時もすっかり押されている。
途中『ちょ、ま、それは』と横槍を入れようとするが、全て叩きふせられた。

「せっかくありつけたペットの散歩だって、ボーッとしてドーベルマン逃がして駄目にしちゃうし、掃除の仕事だって上物の器割っちゃうしで、駄目にしちゃったじゃないですか!全部全部全部銀さんのせいですからね!冬も越せずに凍死したらどうしてくれるんですか!」

一息に言い切った新八の肩が上下に大きく揺れる。
凍死は言い過ぎだろうと言いたいが、どうもふざけられる様子ではない。
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