short 2

□君ヲ想フ・結末
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「仕事、見つけてきてください。」

「……はい。」

新八のいつにない剣幕に押され、ついに首を縦に振らされた銀時はのそのそと動き出す。
意を決して布団を手放せば体がブルリと震えた。

「あー、さみーなおい。いいかお前ら俺がいない間に暖房いれんじゃねぇぞ。今月は絶賛節約月間だからな」

「いれませんよ。ここの経済状態への危機感は銀さんよりも僕の方が高いです」

「グダグダしてないで早くいってくるヨロシ」

「すっかり可愛げなくしやがって」

羽織を着た銀時は酷く恨めしそうに二人を見る。
そしていつまでも『ったく、誰が一番偉いかわかってんのか』やら『これだから最近のガキは』やら『俺が風邪ひいたらどうしてくれる』などブツブツ言いながら出ていった。

「はぁ〜、いい加減仕事こないとヤバいよ僕ら」

「大丈夫、なんとかなるネ。新八の存在感のなさよりもずっと事態は明るいネ。」

「ちょっと神楽ちゃん、それどういう意味。」

「そろそろ眼鏡さえ認識できなくなるアル」

「本体もまだ健在だから!眼鏡さえってどういうこと!?僕の本体認識されてないのかよ!」

新八の突っ込みもよそに、神楽は最後の一枚の酢昆布を口に放った。
空の箱をゴミ箱に放ると縁にあたって床に落ちる。

「あーもう、ちゃんと捨てなきゃ駄目でしょ」

「銀ちゃんも、大丈夫ある」

「神楽ちゃ…」

「だから心配する事なんて何もないネ」

「……………」

窓が、風にあてられてカタカタと鳴った。
そこから見える冬の高い青空に小さな白い雲が一つ、早い速度で流れてゆく。
――― 二週間前、新八と神楽はテレビのニュースで旅籠屋吉井が爆破テロにあったことを知った。
爆破テロといっても吉井を中心としたその界隈が、地盤沈下でも起こしたかのように崩れ落ちたのだ。
深夜に起きたテロにも関わらず一般人には軽傷者を数名だすだけで、奇跡的に死者や重傷者は一人もいなかった。
真選組が近くに点在していて、素早く一般人の誘導にあたったからだ。
その働きによって一般人の重傷者は0―――表向きは。
一般人とくくっていいものかは考えものだが、坂田銀時は重傷の部類であったといえる。
テレビで騒ぎの報道があった日の深夜、万事屋に戻ってきた銀時の包帯を巻かれた体に新八も神楽も目を見張った。
それが件の爆破テロで負った怪我である事は、銀時が吉井にバイトに行っていた事を知っていた二人にはすぐに察しがついた。
どれだけ気を揉んで銀時の帰りを待っていた事か。
前日から姿を消した銀時から夜になっても一向に連絡がこないのだから、心配にもなるというものだ。
昼間に真選組屯所に行ってみたが、二人を知る人が不在で状況を知ることができない。
何度訪ねても門前払い。
大きな病院に探しに行っても見つけられない。
そこへ包帯だらけの銀時が帰ってきたのだから、二人の様子を想像してほしい。
二人の矢継ぎ早な質問を銀時は適当に答えるだけで、詳しい事は話さなかった。
しかし、あれからこっち、銀時はふと意識をどこか遠くへ飛ばすようになる。
普段は特に変わった事はない、いつもの銀時だ。
しかしペットのドーベルマンを逃がしたり、高級な器を割ってしまったりするほど、たまに、心をどこかへ飛ばす。
一体何故と疑問に思っていた矢先、銀時の不在中の万事屋に山崎が訪ねてきた。

『旦那が頑なに受け取ってくれなくて、』

ソファーに座った山崎はまず、苦笑しながら封筒を差し出した。
中には、金が入っていた。
これだけあれば溜め込んだ2ヶ月分の家賃を払ってもお釣りがくる。
驚いてどういう事かと聞いてみると

『依頼料と医療費だよ』

と、山崎は答えた。

『でも銀さんは受け取らなかったんですよね?』

真選組から依頼を受けたと聞かされていない二人はなんのことかと疑問に思ったが、あえて、それは聞かなかった。
最近使った医療費といえば銀時のあの負傷だけだ。
これがあの事に関する金だというのは容易に想像がつく。
こちらが何も知らないと知れば、目の前の地味な男は何も喋らないだろう。

『だから困ってるんだ。これは正式な依頼だったし、旦那には、副長の事で本当に感謝してる。これじゃ足りないくらいなのに……まぁ、お金でどうのって問題じゃないけどね』

『あぁ土方さん。元気ですか?』

そういえば最近姿を見ていないなと、なんの気なしに聞いた。世間話の延長線。

『……副長は…』

それが、ここ最近の疑問の答えだった。
うっすらと浮かんだ力ない山崎の笑顔。

『――まだ、意識を戻さなくて。』




土方十四郎は意識不明の重体。




つい、三日前に知った事実。
それで銀時の様子がおかしかったのだ。
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