short 2
□熱に浮かされて
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「なんでお前がいるんだよ…。」
銀時が久しぶりのサウナで特有の暑さと戦っていると、タオルを一枚腰に巻きつけた土方が姿を現した。
その顔は全面的に内面を押し出したようなしかめっ面だ。
「それはこっちのセリフですよコノヤロー。」
もうすでに臨界点の近かった銀時は力なく答える。
顔を合わせれば喧嘩をしている相手だが、今はサウナに体力を奪われてその元気はない。
言い返したい言葉を最小限におさえて頭を垂れた。
「なんだ、すでに限界かよ。とっとと出ていきやがれ。」
グッタリとした銀時の様子に、土方は明らかに嬉しそうな色を声に含ませる。
「早く行けって、干からびて動けなくなるぞ。」
今2人きりのサウナは、銀時が出て行けば土方で貸切状態になるからだ。
あまりにあからさまな態度にムッとした銀時は重い頭を持ち上げる。
「なんですかその言いぐさ。喧嘩売ってんですか。」
「売ってねーよ。親切心からのアドバイスだよ。」
そう言って土方は銀時から一番遠い位置になる左端に腰を下ろした。
「余計なお世話だよ。銀さんまだまだ限界なんかじゃありませんー。」
明らかに体は限界を訴えていたが、土方のものの言い方が銀時の負けず嫌いに火をつけた。
意地を張ってヘラリと笑ってみせる。
「おいおい無理するなよ。脱水症状で倒れるぜ。」
「銀さん自己管理がしっかりしてるから大丈夫です。」
「そーかよ。ぶっ倒れても助けてやらねーからな。」
少しムッとした様子の土方は『もう話しかけてくんなよ。』とフイっと顔を背けた。
「先に話しかけて来たのそっちだろうが。」
すかさず反撃するが何を言おうと、反応が返ってこない。
土方はツンとそっぽを向いたまま腕を組んで無視を決め込んでいる。
しばらく「おい、税金泥棒。」「酸っぱい臭いするぞ。」といつもなら喧嘩に発展する言葉を投げつけていたが、頑なに黙ったままだ。
噛みつかれるのもムカつくがこれは最高にムカつく。
(なんだこいつっ!ただでさえ熱くて苛々してるってのにマジで性格悪いな。)
しかしあまりに無視をされるもので、
(………こいつ、俺の事がそんなに嫌いだったのか?)
と一瞬理解し難い感情が浮かんだが、自分がその感情を認識するより早くそれは消えた。
ようやく諦めた銀時は正面を向きながら横目で土方を盗み見る。
見ていると、次第に土方の呼吸が大きくなってゆくのがわかった。
熱い息を吐いて、惜しげもなく晒している肌に汗が伝う。
「……………。」
いつも隊服姿ばかり見ていた為気づかなかったが、土方は意外と細い体をしていた。
筋肉がつきにくい体質なのだろうか、肩回りには自分のようにボコリと張り出す筋肉はついていない。
胸筋も自分のものより薄いし、けして折れてしまいそうなというほどではないが腰も細くて、均整が取れた肉付きは綺麗な『くびれ』すら描いている。
「………………。」
土方が深呼吸をした際に、赤い舌がチラリと覗いた。
(エロ。)
………………………
………………………
………………………ん?
(な、なんですかエロってぇぇぇ!!)
銀時は無意識に思ってしまった事に、力の限り突っ込んだ。
(有り得ないでしょおがぁぁぁぁぁ、男に対してエロって!!暑さでそうとう脳がやられてるんだ自分!きっとそうだ!!だって朦朧としてるし、頭クラクラしてるし、多串君がやたらと色っぽく見えっ……だぁからぁっ!それがおかしいんだってぇぇぇぇぇぇ!!!!)
意地をはらずにさっさと出とけば良かったと、銀時は遅れながら後悔した。
第三者から見れば今からでも出ていけばいいのにと思うが、当の本人としては非常に出にくい状態になっている。
一度張ってしまった意地をすぐには撤回できず(なんだか負けた気がするから)、とにもかくにも出にくい。
せめてあと5分は我慢したいところだ。