short 2

□見えない 前
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寒さが厳しくなってきた初冬の日。
真選組の全隊士が中庭にひしめきあっている。

「西地区収穫なし。」

「永倉ご苦労さん。次、東地区。」

土方が次を促すと、永倉と呼ばれた隊長服を着た男は「あんたがご苦労さん。」と言って後ろへ下がった。

「東地区、攘夷浪士を2名捕縛。詰問室に連行してあります。」

「ほぉ、わかった。斎藤は先に行ってろ。俺もすぐに向かう。」



…――今真選組は緊急体制をひいている。
そのため1日の終わりには中庭に一斉に昼間勤務の隊の隊長を集めて、土方は報告を聞く。

副長である土方は、その緊急捜索本部最高責任者だ。


捜索。


その言葉通り真選組に課せられたのは人の捜索。
幕府の要人の婚約者である女性が忽然と姿を消したのである。
外出したきり戻ってこず、すでに10日たった。
立場のある人間の嫁になるのだから過激攘夷派に拉致られた可能性があり、真選組に話が回ってきたのである。



「土方さん、異常ありですぜい。」

「どうした?」

一段落ついた土方が筆を置くと、一番隊隊長沖田総悟が挙手をして声をあげた。
土方が声をかけると近づいてきて、土方にしか聞こえない小さな声をだす。


「異常ならここにありまさぁ。あんた何日寝てないんでい。」

「………ふざけてないで、列に戻れ。」

「ふざけてないでさぁ。飯もろくに食べてないだろぃ。」

「今それは関係ないだろ。早く戻れ。」

きつい口調で沖田を促すと、最後に「後で無理やり口に突っ込みやすからね。」と言って戻っていった。

「一番隊、八番隊、十番隊は夜の勤務に入ってくれ。……山崎。」

「はい。」

声をかけるとどこからともかく、山崎が現れた。

「俺は詰問室へ行ってくるから、この報告書を近藤さんに届けてくれ。」

そう言って山崎に今受けた報告を記した紙を渡す。

「わかりました。」

「頼んだぞ。」

隊員と山崎が散り、土方も詰問室へと足を向ける。
その後ろ姿を沖田は見えなくなるまで見つめた。

その沖田が指摘したように土方の顔は極度の睡眠不足から青白くなり、くっきりと隈も浮かんでいる。
食欲もなくて、1日に口にするのは水と思い出したように舐めるマヨネーズくらいだ。
明らかに以前の土方より痩せている。

「異常…か。」

満天の星空を見上げて、土方は呟いた。

激務により体を酷使しているのだが、土方はあえて体を酷使している。


その理由は他にあった。

異常なまでの食欲不振も多分………いや、確実にそのせいだ。




その理由とは恋人である坂田銀時にある。

6日前の一週間ぶりの逢瀬………。
激務の合間をみて、無理矢理に時間をひねりだした。

土方は思い出したくもないことを思い出してしまい、瞳を伏せる。
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