short 2
□のんべんだらり
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よりによってこんな日に仕事が長引くとは。
銀時はこれから飲みにいくにも関わらずスクーターを走らせていた。
今日は恋仲である土方の貴重な非番前夜。
一にも二にも優先したい待ち合わせにすでに二時間遅れている。
「あ〜も〜、ペットには鎖でもつないできちんと管理しろっての。」
文句を一つ吐き出して目的の飲み屋に着くと、急いでメットをとって暖簾をくぐる。
高鳴る鼓動はそのままに騒がしい店内に視線を走らせた。
「どこだぁい、俺の可愛い黒猫ちゃ〜ん。」
黒い着流しからのぞく綺麗な鎖骨。
薄くついた筋肉が形よく浮き上がる白い胸板。
したたかに酒を煽った体は蒸気し、気だるげな空気がえもいわれぬ艶をだしている。
伸びた白い腕が正面に座る男の顎髭を撫で、それを見つめる濡れた漆黒の瞳はどこかうっとりとしていた。
「泰三さんの顎髭、近藤さんみてぇ…。」
薄くても柔らかそうな唇から酒に掠れた声がもれる。
「すげぇなぁ、ジョリジョリしてんなぁ。」
「いや、あれでしょ、男なら誰でもジョリジョリするから!」
長谷川泰三、通称マダオは目の前にいる男の男とは思えない色気に困惑していた。
(なんだこの副長さんの駄々漏れのフェロモンは……。)
長谷川はいいように髭を触ってくる土方の口元を無意識に盗み見る。
半開きの口から漏れる暑い吐息。
男の性か、ゴクリと生唾を飲む。
(俺の道これ以上を踏み外させないでくれぇぇぇえ!!)
「泰三さぁん……。」
(しかもお前いつも「長谷川さん」じゃねぇか!!なんだ泰三さんって…泰三さんって!俺の事かぁぁぁぁ?!!)
「俺ジョリジョリしねぇんだよ、髭……生えねぇの。」
「あ、そうなの?副長さんはお髭生えないのね〜?」
「信じてねぇの?本当だぜ泰三さん。」
「いや、信じてるからっ…。それから、その、その泰三さんっての止めてくれねぇかな。俺みたいな奴マダオで、マダオで充分だから!!」
少し甘えた口調の土方に、長谷川は外れそうな道を必死に修正しようとする。
そんな長谷川に追い討ちをかけるように土方は首をコトリと傾け、
「なんなら触ってもいいんだぜ、マァダァオ。」
マダオという名を見事なまでに甘美な響きに変換させた。
長谷川の理性をぐらつかせるには充分な響き。
「い、いいの?」
「ん。」
鼻に抜ける声をだし顔を差し出す土方に、長谷川はこのまま最後まで道を外したいと欲望を確固たるものにする。
土方は髭の有無について言っているだけなのだが、サングラスの奥の目はすでに桜色の唇に釘付けだ。