short 2
□承
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うすら寒い――…風の音がする。
ヒュウウウ……
少し高い音をだすそれは、硝煙が残る荒野で累累たる死屍の上を滑ってゆく。
………むせかえるような死臭はしない。
(なんだ、夢か。)
その中心でポツネンと立っていた高杉はうっすらとそう感じた。
地獄絵図に懐かしさを感じながら、人と天人の交戦の名残を未だに夢に見る自分に自嘲の笑みを浮かべた。
この身に巣食う憎しみが衰えない事への賛辞を含めた自嘲の笑み。
360度、余すことない地面からポッカリと闇に落ちた双眼がこちらを見ている。
(……………。)
無念を全身に感じる。
痛いくらいにヒシヒシと。
幕府に裏切られた絶望と混乱に満ちて、道を見失っている。
目指すべき場所を失い虚空をさ迷いながらも最期まで戦ったこいつらは、嫌いじゃない。
むしろその殊勝さはかっていた。
しかし最期まで着いてきたこいつらは、悪魔で着いてきただけにすぎない。
肩を並べた奴などただの一人もいない。
同じ場所、同じ景色を見た奴は一人もいないのだ。
誰一人。
誰一人としてだ。
――――――孤独。
それは誰にも何も見せられない、分かち合うものなど持ち合わせるモノがない、全て一人で担う故にまとわりつく絶対的な孤独だ。
疲弊することも、
精神を磨耗することも、
信念を揺るがすことも、
自らを疑心することも、
ひたすらに許されない。
真っ暗なトンネルの中を一人全力で走るしか道はないのだ。
次から次へ足を前にだすしかない。
留まることなどできない、一瞬たりとも。
でなければこの思いは果たされないのだから―――っ。
この激情を持てる人間は自分しかいない。
自分がぶれれば全てが終わる。
(そんな事があってたまるか。)
世界をこの手で終わりにするまでは。
何があろうと破壊してやる。
『俺からあの人を奪った世界など消えてなくなってしまえばいい!!』
不安も疑心も孤独も共感も、全てこの一念で吹き飛ばせる。
それしか生きる理由などないのだから。
憎くて憎くて苦しくて、世界はあの人を消し去ったのに……なぜ世界はその重罪を理解しない。
なぜあの人の価値を見出ださない。
そんなのはおかしい。
あの人の生きた軌跡が認められないのはおかしい。
あの人の軌跡までも亡きものにし、その価値を知る者は保身に走る。
そんな事が許されてたまるか。
知らず存ぜぬでのうのうと生かしてたまるか。
なんで知ろうとしない、一人の男を失う損失を。
あの人から世界を奪ったその責をっ………。
誰一人……誰一人としてこの激情を持ち続け、ひたすらにその生をひた走る事をできないんだ。
「……………っ!」
高杉は声亡き声を体内で絶叫させ、奥歯をギリギリと噛み締めた。
夢の中で、終始無数の死んだ視線を浴びながら。
……………その中に微かに感じる、力強い光。
『―――――地獄の底まで。』
そう言ったのは皮肉にも宿敵の………事実上の頭だった。