short 2

□終 前編
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今まで、何人も












何人も何人も何人も








――――――殺してきたんだ。



お前なら油断してる相手を一太刀に葬るくらい造作のねぇ事だろ。


いやってくらい殺してきたお前なら、身体に染み付いてはなれねぇだろ。



なぁ、そうだろう銀時。




















そうだろ













「……白夜叉。」

銀時は赤い空の下、ポツリと呟いた。
幾月巡ろうと、いかに時間を過ごそうと、ソレが自分に馴染みついていることを腰に下がる日本刀が嫌でも自覚させる。
しっくり収まる重みが煩わしい。
銀時は一つ細い息を吐いた。
遠くに、見慣れた白黒模様の車が数台止まるのを確認する。
陽が落ちれば山崎と吉井の地下へと潜る手筈だった。
もうすぐ約束の時間がくるというのに、銀時は朝からずっと大江戸駅ではっている。
そして今、待ち続けた人物がやって来た。

「……………。」

視線を人混みに向ければ片時も離れる事のない河上万斉の姿。
少しでも不審な動きをすれば、それはそのまま高杉につながる事を嫌でも悟るしかない。

表現しきれぬ思いで、銀時は拳を握った。

「時間は。」

「あと十分で発車時刻です。」

「そうか。少し急ごう。」

近藤の問いに銀時が名も知らない隊士が答える。
――――胸が痛い。裂けるくらいに。
その光景が、近藤の挙動が、その後ろに着いて歩く隊士の姿が、痛い。
足早に歩く黒い一団の後ろを気取られないように着いて行く。

「気付けよ…。」

苦し気に呟けど届く事ない声。
言葉にすれど気取られるわけにはいかないという強い思い。
ひっそりと近づき、自分なら確実に仕留められる自信。
頭で手順を考えなくとも、体が覚えている。
人の殺し方。
肉の裂き方。
高杉の言う通り、一太刀に葬る確固たる自信が自分にはある。
―――そうしなければ、最愛の人にはもう二度と会えないのだから。

近藤が自動改札を抜けた。
銀時も迷わず準備していた切符で改札を通る。
もう、時間はない。
チラリとまばらな人の間に視線を巡らせると、銀時はしっかりと河上の姿を視界にとらえる。
河上の位置は目算にして先十数メートル。
近藤達に悟られないよううまく動く河上が苦々しい。
方や近藤は、

先、三メートル。

「……………。」


ああ、仕留めるには充分な距離だ。


銀時はしっかりと近藤を見据えて左手で鞘を掴んだ。

「おい、ゴリラ。」

ピクンと反応した近藤の短髪がゆれる。
声につられて振り向いた近藤は少し驚いて口をあけた。

「あれ、銀時じゃん。なんでここに―――。」

そう言って一歩こちらへ踏み出した刹那。
―――銀時の刀が一閃する。

ヒュッ

鋭く空を走る切っ先が近藤の腹を真一文字に切り裂いた。

「っ!」

言葉もなく近藤が身を屈めるより、周りが反応するより早く、銀時が近藤に二の太刀をあびせた。

「悪い、死んでくれ。」

「ぐっ!!」

振り抜いた切っ先に近藤が呻くような鈍い声を吐き出した。
そしてズプリと、傾いた身体に刃を突き刺す。
あまりに一瞬の出来事に取り囲む隊士は一歩も動けずに目を見開くしかできなかった。

「ここで。」

銀時の声を合図に途端に騒然とする構内。
叫ぶ者、逃げる者、腰を抜かす者。
そして雄叫びを上げて抜刀した隊士の刀を、銀時は近藤から引き抜いた刀で瞬く間に凪ぎ払った。
刃と刃が打ち合う甲高い音が辺りに響く。

「はっ、……くそっ!」

痛みに耐え兼ねガクンと片膝を着いた近藤を、銀時は顔を歪めて一瞥した。

「な、んで、銀時っ…!」

「死んでくれ、ここで。」

「…な……ん、で…。」

ドサリと近藤の巨体が倒れるまで、あまりに一瞬の出来事だった。
赤く悲痛な色を宿した狂気の目をその場の者に焼き付けて、白い着物がヒラリと舞う。









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