short 2

□終 後編
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――――――多串くん












うるせぇな、誰だよ多串くんって




『多串くん、多串くん』





だから、多串じゃねぇって。
なんだよ多串って、どっから出てきたんだコラ。
道端で会う度絡んで来やがって、うるせぇな喧嘩になんのわかってんだろ。






『ねぇ、多串くんってば』






だから、なんだよ。
いつもいつもなんなんだよ。
本当にわけわかんない奴だな、なんだお前。
人の名前もろくに覚えられねぇ癖になんだってんだ。
市中見廻りにでると毎回どこからともなくやってきて、お決まりのように喧嘩して……ふざけんなクソ。
何がしてぇんだよ。


………俺に


何しやがった。


なんで外行ってテメェに会えないと釈然とならねぇ気分になってんだよ。
なんで気づいたら街中で不潔な銀髪探してんだよ。
なんでテメェのやる気ねぇ声聞いてやる気がでてくんだよ。
なんで




『多串くん』





だから名前ちげぇっつってんだろ糞天パ。
なんで、こんな…こんな………




『………………』




クソッ!
ムカつきすぎてお前の顔が頭から離れねぇんだよ。
気に食わねぇ、ムカつく野郎なはずなのに。
去って行くテメェの背中が、
チラつく銀髪が、
死んだ魚の目が離れなくて、気分悪ぃ。
もう俺の前に現れるな。
テメェ見るとムカつくんだよ、苛々すんだよ最悪だ!
そのヘラヘラした顔が俺の中に出てくんだよ、見たくねぇのに出てくる度にどうしようもなくムカつくんだ。
こんな、こんな………





『…―――ひじかた』





だから名前くらい覚えられ…





『土方くん』








『土方くん、好きだよ』








……っだよ、

なんだよソレ……!ふざけんな!ふざけんな馬鹿死ね!

『うるせぇなぁ、言ってる俺だって恥ずかしいんだからよ。俺も銀時の事愛してる(はあと)くらい言えねぇの?』

はあ!?

『ね、ホラ。ひーじかーたくーん。銀さんの事どう思ってるの?』

なっななななななに言ってやがっ…

『なぁ、聞かせてくれよ』







――――――その時

不意に真剣になった目に囚われて、胸の中で暴れ回っていた奴がいきなり動きを止めた。
『ここから出してボクをここから出して』
嬉しそうに胸の内側を両手で叩いてくるソイツが
『出して、出して』
あまりに必死に叩いてくるものだから……





『土方くん…』





つい、そいつが俺になっちまったんだ。







『……きだっ…』


だって俺も前からずっと


『俺もお前が好きだ…』




(最初から)





『ちゃんと聞いたからな。後から今のなしとかなしだからな』

『うるせぇボケ、武士に二言はねぇんだよ』

『かぁっこい〜』

『はぁ?!テメェやっぱムカつく!』

『怒んなって俺も何言っていいかわかんねぇの』

『あ゙?』

『大好きな土方くんと両思いで嬉しくて、舞い上がってら』

『ば、馬っ鹿じゃねぇの!?』

『おー馬鹿かもなぁ。嬉しくておかしくなりそうだわ』





(そのつもりで近づいてきたのかも知れねぇなぁ。)






『嬉しくて嬉しくて…』

『万事屋いい加減に』

『まさかこんな簡単に騙されるとはね』

『―――え?』



その刹那、視界が真っ赤に染まった。
次の瞬間には目の前に近藤さんが立っていて……

『……トシッ…』

『近藤さ』

口から赤い血を吐き出した。

『がはっぐっ…』

『近藤さん!』

腹から刀がつき出している。
近藤さんの腹を突き破って、赤い血を刀身にしたたらせて。

『あっ…あ…』

その刀が引き抜かれると血が、一気に吹き出した。
足元に滴るソレに引き摺られるように、近藤さんの身体から力が無くなってゆく。

『近藤さん!』

『ト、シ……』

倒れ込む大きな身体に手を伸ばすと、生暖かい嫌な感触。
いつもは血色のいい顔から血の気が失せていく。

『いやだ…近藤さっ…近藤さん!』

『なんで…、トシ、な、で……』

『こんど、さ…』

薄くなってゆく視線の先が自分を見ていない。
恐る恐るその視線の先を追ってみる。

『―――――。』

そこには

『ありがとう土方クン』

白い着物を赤くした、坂田銀時が暗い笑みを張り付けて立っていた。



『うあぁぁぁあぁぁぁぁ!!』



(可哀想になぁ)







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