Parallel

□ねぇ聞いて本当は
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『そご君、そご君。こっち来てみろよ、な、そご君。』






まだ5歳くらいだろうか。
幼い土方が気恥ずかしそうに、眉間に皺を寄せて自分を呼んでいる。
毎日泥だらけになって一緒に遊んでいたあの頃。
大層からかいがいのある友達が面白くて、悪戯したり困らせるのが大好きでいつもその後ろをついて回っていたのを覚えている。
まだ何も知らなくて一緒にいたければ何も考えずに一緒にいれたあの頃。




『ひー君なに。』

『あのさ』




自分の気持ちも世間の常識とか何も知らなくて、何をするのも一緒だった。
その土方が初めて見せたなんだか煮え切らない表情が、幼い沖田の胸に強い印象を残している。






『あのさ、そご君――…』










【7.8のお話、ねぇ聞いて本当は】









「……うご、総悟!」

「んん…」

「起きろ総悟!」

身体を揺さぶられて重い瞼を薄く開くと、ぼんやりと丸くて黒いモノが映る。
瞬きをしてボーッと目を凝らせば段々と形をなしてきた。

「んあー…ひー君じゃないですかい。」

「誰がひー君だ。」

そこには今さっきまでは幼かっった筈の少年が成長した姿で立っている。
大きな瞳に可愛い姿は面影を潜めており、どうやら自分は夢を見ていたらしい。
夢から覚めきらずについ懐かしい呼び名を言うと、あきれたような溜め息が返ってきた。

(やたら昔の夢見たなぁ)

なぜ急にあんな夢見たのだろうと覚醒しきらない頭で朧気に考える。
幼すぎて記憶さえあやふやな歳。
断片的な思い出には必ずと言っていいほど土方と一緒にいて、自分はいつもジッとその横顔を見ている。
思えば、あの頃から自分はこの男が好きだったのかもしれない。

「なんだよ。」

ベッドに横たわったまま昔と同じくその顔を見ていると、切れ長の目が不信げに歪んだ。

「チ、またお前か土方コノヤロー。人の安眠を邪魔するんじゃねぇよ。」

「あーはいはい。」

土方は沖田の悪態を軽く受け流す。
土方が沖田を起こしにくるのはたいして珍しい事ではなく、お向かいに家がある二人の日課にすらなってきているので寝起きの悪さも慣れたもの。
これも一重にあまりに遅刻の多い沖田に土方が業を煮やした結果だ。
部活の朝練や他に用事がないときには、ちゃんと早めに起きて沖田を迎えにくる。

「人がせっかく来てやってんのにいい度胸じゃねぇか、オラ遅刻するぞ。」

「やだエッチィ襲われるー。」

「あぁ!?」

「そんなに溜まってるなら言ってくれればいつでも相手してあげたのに。」

いつまでもベッドから動く気がない沖田からタオルケットを剥ぎ取ると、いわれのない言葉を浴びせられてさすがに土方は青筋をたてた。
ふざけてTシャツの襟元をチラリとはだけさせた幼馴染みをギロリと睨む。

「テメェ!いい加減にしろやコラ!!」

「どうせなら朝じゃなくて夜に来てくだせぇ。」

「くだらねぇ事言ってないでさっさと起きて準備しろ!!」

「ぶふ」

急に視界がなくなったと思ったら、どうやらシャツを投げつけられたらしい。

「皺になったらどうしてくれるんでさぁ。」

「元々皺だらけだろうが。」

舌打ちをしながら身体をおこすと強い太陽の光が部屋の中に差し込んだ。
土方の手によって軽快な音をたててカーテンが開け放たれたのだ。
沖田は光の強さに瞳を細める。

(あーあ、本当に夜来てくれたら大歓迎してやるのに。)

土方にはくだらねぇと言われたが、さっきのは冗談半分本気半分……いや、ほとんどが本気と言っても過言ではない。

「だからボーッとしてんじゃねぇよ。」

「土方さん眩しいでさぁ。」

「そのまま目玉が潰れてしまえ。」

沖田が両手を上げて万歳の形をすると、土方がごくごく自然にTシャツを脱がしてやる。
そしてそれを几帳面にもちゃんとたたんでベッドの上に置いた。

(朝かぁ、朝はなぁ…寝起きなんて苛々するし)

「ホラ、腕通せ。」

「やっぱり夜に来てくだせ。」

「まだ言うか。夜に来ても意味ねぇだろ。」

背中に広げられたシャツに腕を通しながら溜め息をつくと、頭の上から舌打ちが聞こえた。

「でも夜のが色々できやすぜ。」

「なんの話をしている。」

「……営み?」

「だからなんのだ!いつまでも寝ぼけてねぇでボタンくらい自分でつけろ。」

「えー。」

「駄々をこねても駄目!」

「冗談の通じない人でさぁ。」

「あ゛?」

のそのそボタンをつける沖田と口を煩くする土方は、気づけばギリギリまで沖田の部屋で過ごしてしまい、全速力で学校へと向かった。


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