Parallel

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窓に、雨が打ち付ける。

音。




(雨………)




今日は、雨。
ベッドの上でうずくまりながら、そんなせんないことを考える。
時計の針が動く音がカチカチと、一秒一秒時を刻む。
もう……日は跨いだろうか。
跨いだんだろうな。
もう随分とこうしてる気がする。
下手したらもう朝になってしまうかもしれない。

「……足…、痛い…」

雨だから、気圧の変化で怪我が痛んだ。
ズクズク、痛んだ。
視界に入る携帯がやたらと目につく。
家に帰る途中、坂田からメールが届いたからだ。

『なんで先に帰ったの?』

枕元の携帯の中にある、坂田からのメール。
俺はそれに返事をしてない。
返事ができない。
だってなんて返せばいい?
お前に会いたくなかったって言えばいいのか?
それでなんでって聞かれたら困る。
俺だってわからないんだ。
なんでお前に会いたくないかなんて。
ただ…
ただ、お前の事を考えると苦しい。
考えるだけで苦しいのに、坂田、お前を前にしたら俺はどうなっちまうんだ。
それにこれからお前は月詠と一緒に帰るんだろ。

「………………」

家の外から道路の水を掻き分けて進む車の音がする。
その後しばらくして聞こえた幾分か軽いそれ。
それは家の前で音を消してまた走り去っていった。
新聞配達だろうか。
朝がくる。
さすがに部活の休日練習にまでは坂田も迎えに来ないだろ。
ていうか来んな。
絶対来るな。
ヴヴヴ ヴヴヴ
そこへタイミング良くというべきか、携帯が震えた。
いつもはこんな時間に誰なんだよとか思うが、俺はほぼ無意識に新着メールを開いた。
相手は『坂田』。

「………っ」

俺は柄にもなく差出人の名前に息を飲んだ。
一瞬躊躇ってから中身を見る。

『今日も迎えにいく。』

なんだこいつエスパーか。
絶対来るなと思った矢先にこんなメール送ってくるなんて。

(嫌だ会いたくない。)

会ったら、嬉しそうに彼女ができたって言うんだろ?
月詠と付き合う事になったって。
だからもう、一緒に帰る事もできないって言うんだろ。
飯も一緒に食えないって言うんだろ。
――――聞きたくない。
今は、まだ。

『いい、悪い』

俺はそれだけ打って送信ボタンを押した。
するとすぐに坂田から返信が帰ってきた。

『悪くない、行く。』

(なんでだよっ…)

いいって言ってるじゃねぇか、何度も来るなって言ってるじゃねぇか。
なんでそんなに俺にかまうんだよ。
やめろ馬鹿。
坂田の馬鹿、糞天パ!
優しくすんな、俺にかまうな。
そんな風に優しくされたら…、優しく、されたら…。

『本当に、悪いからいい。』

嫌だ苦しい。
こんな気持ち嫌だ。
優しくするな。
優しくされると、どこか喜ぶ自分が嫌なんだ。
少し喜んだ後に現実を思い出すと余計に苦しくなるんだ。
優しいお前の口から、何も聞きたくないんだよ。
なのに無情にも坂田からのメールが届く。
酷く、心を揺さぶる坂田のメールが。

『伊東とは一緒に帰ったのに?』

「――――――。」

知って、る?
嘘、なんで…。
俺が勝手に約束破って、伊東と一緒に帰った事。
胸の中がツンとひきつって、頭の中が真っ白になった。
いやいやでも待て。
俺が伊東と一緒に帰ったところで、こいつにはさほど関係ない。
そりゃ約束破ったのは悪いけど、約束ってほどの事じゃない。

(そうだよ、俺は元々来るなって言ってるわけだし。)

帰りもいつも約束してるわけじゃねぇし。
俺は力の入らない親指でメールを送る。

『あぁ』

『なんで?』

また、『なんで』。
だからそれは困るんだって。
お前に会いたくない。
でもそんな事言えるわけねぇじゃねぇか。
また理由を聞かれたら、もう俺には答えようがないんだ。
坂田と月詠の姿が頭に浮かぶ。
胸がしめつけられる嫌な感じ。

「………………」

俺は、カチカチと、メールを送る文を作る。


日曜日も駄目になった。


作るだけ作って、送信ボタンを押すのを一瞬躊躇う。
会いたくない。
坂田。

(坂田、坂田…)

会いたくないよ、お前に会いたくないよ。
なぁ坂田、誕生日は彼女と過ごしたいだろ。
会いたくないよ……
坂田、お前に会いたくないんだよ。

「………………」

俺は、ゆっくりとメールの送信ボタンを押した。





そしてその日の朝、坂田は迎えに来なかった。
携帯もあれから坂田の名前をうつさない。

「……痛ぇ…」

真っ白い空の下、俺は1人、雨の中を歩く。







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