Parallel

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―――……ガタンゴトン

(……あれ)

ガタンゴトンガタン

(あれれ)

これは、一体、なにが起きているんだろうか。
電車に揺られながら、俺は自分の置かれている状況を整理してみようと試みる。
満員電車に乗ってドアの横の角の所に背中を預けたのは今しがたの話だ。
揺れに合わせてたまに、ミリタリーコートについているファーが鼻先をくすぐる。
俺が着ているのはPコートだからファーなんて付いてない。
松平のは白のダッフルコート。
じゃあ誰のミリタリーコートのファーだってことだ。
そう、それが問題なんだ。

「土方、苦しくねぇか?」

「ん、お、おう…へ、き…」

囁かれたこの声の持ち主は、坂田のものだ。

(おいぃ、なんだよこのじょうたいっ…)

坂田の手は、俺の横にあるポールに一本、俺が背中を預けている壁に一本位置している。
俺達の位置関係をぜひ想像してほしいんだけど、多分、その想像で合ってる。
そして坂田はその背中に電車にいる人達を担ぎ、電車が揺れようが急ブレーキをかけようが、俺には一切圧力がこない。
たまに

ガタン!

「っ、」

「と、わり」

坂田の体が、俺に触れるくらいで。

「いや、そのくらい…」

なんてことない。
大丈夫。
このくらいの距離感、いつもの事なのに。
体だって肩組まれりゃいつも触れているのに。
それでも、こんなにドキドキと胸を打ったりしなかった。

(ねつのせいかな)

ぼんやりと目の前にある坂田の胸元が視界に映る。
見慣れたYシャツ学ランじゃなくて、白の、ユーネックのシャツ。

(さかたのしふくみるの…ひさしぶりだ)

なんだか見慣れなくて違う人みたいだ。
学ランより大人っぽく見えて、たくましく、感じる。
ギリギリまで接近した体からはほのかに熱を感じる気がした。
ドア越しに感じる外の冷気とは対象的で、思わず甘えたくなる。
それがまた脈を加速させて体の熱を上げているんじゃないだろうか。
熱いし、苦しい。
それでも、こんなに熱いのに肌の上に鳥肌がポツポツと浮かび、寒気を感じる。
それがとても心もとなく感じて、
あぁ、このまま思い切り抱き締めて欲しいだなんて…なんて、自分は浅ましくて、汚いんだろう。

(…さか、た……)

なんで、ここにいるんだ。
なんでお前がここにいて、俺と一緒にいてくれるんだ。
だってこんなのおかしいじゃないか、こんな都合よく、俺の望み通りにお前がここにいるなんてあり得ねぇよ。
少しだけ、ほんのわずかに視線をずらすと、坂田の横顔がある。
ただ静かに、窓の外を見ている横顔が。

(さかた…)

幻のように思えるそれを瞼に残して目を閉じると、感じる気配が、息づかいが確かにそこにあって、確かにそこに坂田がいる事がわかる。
なぁ二次会は?
なんで、ここにいるんだ。
俺なんかと一緒にいていいのか。
聞きたいけど、聞けない。
怖さや恥ずかしさや緊張で喉が詰まる。
なぁ、俺の事気持ち悪くねぇのか。
まだ友達してくれるか、一緒にいてくれるか。
ごめん坂田、ごめんな。
何に対して謝ってるのか自分でもわからねぇけど、罪悪感が浮かんで訳もなく謝りたくなる。

(……さかた、さかた…)

なのにどうしよう、―――嬉しい。
お前が今ここにいてくれる事が、すげぇ、嬉しいんだ。

「―――た、」

「……………」

「…さか、た……」

「………どうした?」

「え?あ……おれ、いまなんか……」

言った?言ったのか?
やばいどうしよう、熱に浮かされて言ったのか。

「う、あ…わり、その…」

「辛いか?」

「ん、いや、へいき」

「痩せ我慢するな」

「してねぇ…わるいさかた、めいわくかけて…」

「迷惑なんて思ってねぇから」

「わっ」

後頭部を坂田の掌に覆われたと思ったら、グッと力を入れられて引き寄せられた。
そしてそのまま、俺のおでこは坂田の肩にボスンと埋まる。

(えっ、ちょっ)

「貸してやるからよっかかっとけ」

「いい!わるい!」

「いいから」

「さかっ…」

「辛いんだろ。いいから、そのままでいろ」

「―――……っ」

本当に何が起きてるんだ。
心臓が暴れて収集がつかない。
でも、でも肩を貸してくれて事実楽だし、それに、こうして触れた場所からなんだろうこう、安心感が広がるっていうか…いやでも感じる坂田の匂いにホッとする。

(なんだよ、おとこまえすぎるじゃねぇか)

押し付けるようにあてがわれていた手が離れていっても、俺はそのままジッとしていた。
ああもう嫌だ。
こんな事されたらもっと、がんじがらめになっちまうよ。

(……さかた…)

坂田、坂田。
なんでお前はそんなに優しくていい奴なんだ。
もう嫌だよやめてくれよ。
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