Parallel

□おまけの12月26日
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どうもどうも幸せ絶頂期坂田です。
今の時刻は深夜1時をまわったところで、目の前には薬がきいてきたのか穏やかな顔をして眠ってる土方がいる。
その土方の右手と俺の右手はしっかりと繋がっているんだぜでへへ。
ぎゅっと握られたまま離れねぇこの手を振り払うなんてできるわけねぇよ握りっぱなしだよトイレだって我慢する。
あどけない顔してスースー眠る土方から目が離せません。

(可愛いなぁ…)

ああもう食べちゃいたい。
でもこんな安心しきってる土方を襲うわけにもいかねぇし、熱あるし我慢我慢、頑張れ俺。
晴れて両想いになった今日にそんな不粋な真似したくねぇしな。

(ああもう本当に幸せ)

きっと今の俺世界一幸せ。
今なら空も飛べる気がする。
口の中に残るケーキの甘味が何度でもあの瞬間を思い起こさせる。
実はあれから俺はケーキをワンホール食った。
浮かれちまってむっしゃむっしゃ食ったよね、ペロリだよね。
だってさだってさ、土方がさ、

『ケーキ…もらってくれるか…?』

って、上目遣いに聞いてくるんだぜ。
坂田好き!大好き!って言ってきた延長線でだぜ。
――――まぁ、もらうよね。
どっちにしろもらうよね。
むしろ奪ってでももらうよね。
土方が熱まで出して手に入れてくれたケーキを一体誰が拒絶するってんだ!
そのせいで色々とドギマギさせられた事だけど、もう全部どうでもいい。
俺今ちょー幸せだもん。
まぁでもよ、俺には引け目があって…
プレゼント用意してなかったんだよね。
土方はこんなになってまでケーキを買ってくれたのに。
俺ってばそんな心の余裕全然なかったんだもん。
まぁそれで正直に言ったわけだ。

『悪い土方…でも俺、プレゼント用意してなくて…』

すっげぇ心苦しかった。
申し訳ねぇし、男としてどうなんだって恥ずかしくて悔しくてすっげぇ後悔した。
でもそしたら土方が、

『じゃあケーキくって…、さかたがくってるのみれたらうれしい』

―――――食うよね。
そりゃ全力で食うよね。
なんて健気なんだこいつ!
まじもう愛しくて可愛くて胸がはち切れんばかりだよボカァ!
すかさず部屋の隅に置いといたケーキを開けて食いました。
ちなみにこれはちゃんと俺が持って帰ってきてたから。
駅で会った時からずーっとずーっと気になってたわけだから。
勇気出して聞いてみて良かった。
見覚えのあるケーキ屋の箱にまさかって期待が心のどこかにとどまっていて、すぐにでも問いただしてしまいたかったけれど。

(俺って思ったより臆病者だったんだな)

違うと言われるのが恐かった。
もしあの時土方がケーキの為って言ってくれなきゃ、告る勇気なんて俺には湧いてこなかった。
絶対に。

「人の気も知らねぇで…」

こいつを見つけた駅で俺が抱いた感情を、この先こいつが知る事はないだろう。
知る必要はないし、知って欲しくない。
腹の底から沸き起こった汚い狂暴な嫉妬心。

「………………」

俺は土方を気遣うように引き寄せたがそれは違う。
あの子に触れているのが赦せなくて無理矢理引き剥がした。
こいつに触れていいのは俺だけだっていう傲慢な独占欲。
見せられるわけがない。
その後も留まろうとする彼女を土方の傍から遠ざけたくて、帰るように促した。
電車もわざと2本遅らせた。
乗り込んだ電車の中で、ドアの横に背中を預けるお前を俺がどんな気持ちで見ていたかなんて気付いてないだろう。
もちろん心配もしてた。
だけど今、ここに土方がいる事への優越感や喜びも確かにあった。
お前があんなに苦しそうにしていたのに。
抱き締めたいのを必死に我慢してた。
なんで俺に黙ってあの女と一緒にバイトなんかしたんだって責めたかった。
お前を好きでいる事に綺麗な感情のままでいられない。

(汚ぇよな、俺…)

でも、その汚いのは全部、お前が持ってたケーキがギリギリのところで押さえてくれてた。
もしかしたら、
もしかしたら。
その可能性があったから、俺は最後までお前に優しくできたんだ。
良かった。
本当に良かった。
感情のままに動かなくて、嫉妬に飲み込まれなくて本当に良かった。
今こうして、手を握ってお前の寝顔を見ているのが夢みたいだ。
誰かに奇跡だよって言われたら、今の俺ならあっさり信じると思う。
本当はいっぱいキスして抱き締めたい。
ケーキを食べる俺を、目を潤ませながら嬉しそうに見つめるお前がどんなに愛しかったか。
手掴みでバクバクとワンホール食いきった俺にドン引きしたように見せてたけど、滲み出る喜びは全然消せてなくて、それが余計に可愛かった。
やっぱり好きだなって思った。
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