Parallel

□2
1ページ/7ページ





午後7時。
部活が終わって即座に俺は体育館へ向かった。

「ごっめん!マジで悪かった!」

「……………」

そして下げた頭の上で手のひらをつけて誠心誠意光の速さで謝ってみる。
目の前にはもちろん土方。
あれから話そうと思っても教室での土方は全身で話しかけんなオーラを放っていて近づくこともできなかった。
チャンスがなくてずるずるとこんな時間になってしまったが、やっと、やっと謝ることができる!

「俺の軽率な発言で今日1日ご迷惑おかけしました!」

「は?どうしたんだよ急に」

「え?」

しかし当の土方はきょとんとしていてまるでピンときていない。
あれ?怒ってない?
ちらりと上目に盗み見ても土方は本当にわかっていないようだ。

「いや、だってさっき…」

「さっき?」

「怒ってたんじゃねぇの?昼休みの時だって」

「あー…、ああ、昼休みのあれな。……で、どのこと?」

「へ?あれ?」

「お前はどの事謝ってんだ」

「どの事って…」

どの事って1つしかなくね?
ていうかそんな記憶にもひっかからないほどどうでもいい事だったのか。

(えーマジかよ。俺ずっと気にしてたのに)

午後の授業も部活中もずっとそわそわしてたんだぜ。
今はねぇけど不機嫌オーラがビシビシ出ててさ、気が気じゃなかったのに。

「いや、気にしてねぇんならいいけど…マダオに茶々入れられたり、その、午後もクラスの連中にからかわれたり…」

そこまで言うと土方はああと相づちを打った。
そして冷ややかな笑みをうっすらと浮かべて

「その事なら気にしてねぇから、ぜんっぜん」

(―――――なっ…!)

俺の体を凍りつかせた。
なおも「そうだよな、その事だよなうん。わかってたわかってた」なんてブツブツ呟いている。
えっ、なになになんなの恐いんですけど!

「ひ、土方…?」

「あ?」

「ほ、ほほほ本当に怒ってねぇの?」

「怒ってない」

―――恐い。
にっこりと微笑んだその顔が余計に恐い。
なんだよそれえぇぇぇ!
逆に耐えられねぇよ言いたいことあるなら言ってくれよおぉぉぉ!

「ご…」

「ご?」

「ごぉめえんんん!!」

「うわあっ!」

「本当にごめんだから怒らないでお願いしますうぅぅ!!」

「なんだよ急に!怒ってないっつってんだろやめろよ肩掴むな恥ずかしい!」

「ホントにホントに怒ってない?」

「………ねぇよ」

「ちょ、なんだよその間!やっぱりご機嫌斜めなんだろ!」

「だからやめろって!あんまりそういう事言ってっとまた…」

「おー、喧嘩するほど仲がいいってかぁ」

不意に、聞き慣れた声が土方の言葉を遮った。
声をした方を見るとクラスメイトが3人ほどニヤニヤしながらこっちを見ている。
あ?あいつらいつの間にいたんだ。

「ところかまわずイチャイチャしやがって。お熱いねぇご両人!」

「そうなんです、いいとこなんですぅ。そう思うならそっとしといてくれませんかぶえ!」

「て、てめぇは全然反省してねぇじゃねぇか!」

追っ払おうと軽口を叩いた瞬間、顔面に活きのいい右ストレートがめり込んだ。
誰のものかって言うまでもなく土方の拳だ。

「そういうこと言うからあいつらがつけ上がるんだよ!」

「ちょ、ま、落ち着け土方、逆にそういう反応の方がホントっぽいだろ」

「ああ?おいお前ら!俺と、こいつは、全っ然そういうんじゃねぇからな!」

「あんまり暴力が酷いと旦那に逃げられるぜ、奥・さん」

「ふっ…ふざけるなあぁぁぁぁ!!!」

土方が噛みつくように叫んでも、奴ら3人はわかったわかったと肩を震わせて笑っている。
あーもーこいつは。
そういう反応すると余計に相手を喜ばすだけだから。
土方って誰から見てもからかいがいがあるんだよな、うん。
それに気づかぬは本人ばかりというね。

(というか…)

「てめぇらマジでいい加減にしろやボケ!誰がこんな甲斐性無しのマダオを旦那にするってんだ!!」

そんなに嫌がられると俺だってちょっと傷付くんですけど。
そんなに嫌?嫌なのか俺がそんなに嫌なのか!

「ひ、土方…」

「ああ!!?」

「それ以上はさ、その、なんつぅか俺のダメージが」

「は?お前のダメージ?」

おお、怖い顔!
ぐりんとこっちを振り向いた土方の鬼気迫る表情に一瞬尻込みする。
いつもはあんなに可愛いのに眉間に皺がよると途端に凶悪になっちゃうんだから。

「とりあえずさ、もう部活終わったんだろ?帰ろうぜ」

「あぁ、うん、そうだな。ちょっと待ってろ、着替えて来るから」

「土方、」

「あ?」

「今日ちょっと遠回りして帰ろうぜ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ