Parallel
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「遠回り?」
あどけない黒目がパチリとしばたかれる。
ああ、可愛いなぁくそぉ。
それからなんでと首を傾げた土方の耳元に口を寄せて、俺は周りに聞こえないよう小さな声で囁いた。
「少しでも長く一緒にいたい」
今日はあんまり一緒にいれなかったからな、少しでも取り戻さねぇと。
物足りなくてズリセンもままならねぇよ。
「だめ?」
とは言っても土方は体力の限界まで部活で体を酷使している身だ。
駄目押しとばかりに反応のないその人の顔を覗き込んでみる。
土方の場合はまっすぐ目を見てお願いすれば、大体おっけいだしてくれるからな。
どんなにしかめっ面しててもすぐ照れて顔真っ赤にしちゃうからな。
しかし、そう思って覗き込んだ先には、
「ばぁか」
「・・・・・・」
予想外にも、嬉しそうに頬を緩めた土方がいた。
「じゃあまた後でな」
だめでもなく、恥ずかしがって怒った顔をするでもなく、ほっぺたを蒸気させて(ここは動いた後だからとかは考えない)嬉しそうに「ばぁか」って。
「おう…」
逆に、こっちの顔がバフンと赤くなったのがわかった。
呆ける俺に背を向け、土方がパタパタと部室棟へと去って行く。
「……―――――」
――――っ完全に不意討ち食らった!!
なんだあれなんだあの顔!
どうしたの機嫌悪ぃんじゃなかったの!
(ええええ、さっきまで怒ってたよなぁ?)
それがあんな…あんな可愛い顔して「ばぁか」って、
(萌え殺す気かコノヤロォォ!)
一体どうしたすげぇ可愛かったんですけど心臓ピョーンて飛び跳ねたんですけど!
わからん…土方が全然わかんねぇ…。
機嫌がいいにこしたこたぁねぇけどよ。
女心はわかんねぇっていうが、土方もなかなかわからねぇよ。女じゃねぇのに。
(長く一緒にいれるからまぁいっかな)
―――そんなわけでその日、遠回りして帰った道のりはすげぇ楽しかった。
特に何かをしたわけではないけれど、ただ、二人で並んでとりとめのない話をしながら土手を歩いた。
人気がないのを確認して少しだけ指を絡めて手を繋いで歩いたり、遠くに人影が見えるとパッと手を離したり、そんな、ささいな事も楽しくて人が通りすぎる度に顔合わせて笑った。
オレンジ色の西陽が土方にそそいで、浮かび上がるその1つ1つの表情から目が離せなくて。
土方は俺の視線に気付くと照れ隠しとばかりに眉を潜める。
この時の俺は本当に幸せで、家に帰ってからもニヤニヤが止まらなかった。
―――この事が次の日どんな事態をもたらすかなんて微塵も予想していなかったから。
予兆はあった、が、しかしそれがまさかこんなにも俺達に亀裂を産みだすだなんて想像していなかったんだ。
「なぁ、お前ら昨日どこ行ったんだよ」
次の日。
教室に入った朝一番、クラスの奴がニヤニヤと笑いながら俺と土方に近づいてきた。
昨日の放課後に体育館でも絡んできた高梨と田島だ。
そのにやついた顔に良からぬものを感じ、嫌な予感が過る。
「どこってなんのこった」
「とぼけるんじゃねぇよ。電車も乗らずにどっか行っちまったじゃねぇか」
「あーはいはい、少し遊んで帰ったんだよ」
「遊んだってなにして。遊ぶにしたって電車乗って隣の駅行った方がいいだろ。なのにあんな人もいねぇような寂しいところでナニして遊んでたんだよ」
下世話なその表情からそいつらがなにを言わんとしているかは一目瞭然だった。
あぁまたいつものやつかと、溜め息がでる。
昨日の今日でこれでは土方が余計に神経質になりかねない。
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇっつの。少ししゃべって帰ったんだよ」
「なぁなぁお前らやっぱり付き合ってんだろ」
「んでそうなんだよ。ちょっとばかし仲がいいだけだっつの。なぁ土方」
「お、おう」
隣にいる土方を見てみれば、その顔色が真っ白になっていた。
げ。
え、ちょ、土方くん!?
「いやいやいやでも俺達見ちまったんだよなぁ」
「あぁ?」
含みを持たせた言い方をする田島に睨みを聞かせてみれば、首に腕を絡まれてグッと引き寄せられた。
土方も同じように高梨に引き寄せられて、俺達は四人で鼻先に顔を突きつけ合う。
すると高梨が声を1つ落として囁いた。
「手、繋いでたろ」
なんだよ手ぐらい。
正直そんな事かと拍子抜けしたくらいだった、が、
「―――――ばっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ!!」
土方が耳元で声を張り上げた。
「そんなの見間違えだろ俺達じゃねぇ!」
「ちょ、落ち着け土方っ」
「ああ!?」
「いやいやお前達だって、俺ちゃんと見たし」
「ちげぇよ!見間違えたんだろ!てめぇらの勝手な妄想に俺達を付き合わせるなよ!」