Parallel

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「別れるか」

え。

「周りの奴等にもばれちまったし、やっぱり俺達が付き合うだなんて無理があったんだよ」

え、え、ちょ、土方?
なに言ってんの?なに言ってんの!?

「冷静に考えれば気色悪いし、色々とからかわれるのも疲れた」

なっ…

「友達に戻ろうぜ。もうあんまり気安く話しかけるなよ、じゃあな」

土方!?
ちょっと待て!
なに勝手に決めてんだよ、おい土方!!
行くなよ待てって!
俺は咄嗟に土方に手を伸ばした。
しかし掴もうとした腕はスルリとすり抜けていってしまう。
ひ、土方っ…。
背を向けて去って行くその後ろ姿を追いかけたが、てんで追い付かない。
走っても走っても、土方がどんどん小さくなってゆく。
叫んでも振り返ってくれない。
土方はためらいもなく、俺を置いて行く。
どんどん、どんどん縮まらない距離ができてゆく。
そして、見えなくなる。
土方が俺の世界から消えてしまう。
……嘘だろおい。
やめろよ、こんなのってねぇよ。
終わっちまうのか、俺達は。
このまま。
終わっちまうのかよ!
――――嫌だ。
そんなのは嫌だ。
…土方。
土方…っ
土方!

「土方あああああああ!」

ピピピピピピピピ

「………あ?」

次の瞬間、
目の前には見慣れた天井が視界に広がった。
無機質な機械音が鳴り響き、雀の声が微かに聞こえる。
カーテンからは柔らかな朝日が差し込み、土方の姿などは影も形もない。

「………ゆ、夢…」

拍子抜けした俺はありったけの息を吐き出した。
体を起こして目覚ましを止めれば、ボーッとした頭がゆっくりと覚醒してくる。
良かった。
本当に良かった。
額を拭えば汗をぐっちょりとかいている。
喉もカラカラだ。

「にしても…なんつぅ悪夢…」

怖かった。
本当に。
夢だとわかった今も、心臓がバクバク鳴っている。
指先も力が入らないような変な感覚だ。
夢の中の土方の顔は冷めきっていて、できればあんな顔は一生見たくない。
もし、もしだけれど、あの夢が正夢になどなってしまったら。

「…………」

なって、しまったら……。

「いっ…嫌だあああああ!!」

俺は想像しかけたそれを咄嗟に打ち消した。
ダメだそんなこと想像もしたくない!
土方!
俺の可愛い土方!!
だめだめだめだ絶っっっ対にダメだ!!

「嫌すぎて死ぬ!」

だだだだけど、昨日はあれから一回もしゃべれなかった。
目も合わなかった。
いつもはタイミング合わせてんのかってくらいバッチンバッチン合うっつぅのに!
教室に戻ったら和解したのか高橋と田島としゃべってる土方がいた。
俺はそれを横目に見ていただけだ。
なんだあれ、拳を交わしたら仲良くなるっていうあれか。
少年誌さながらの鉄板ルール的なあれか。
ふざけんなよくそおおお!!
誰のせいでしゃべれなくなってると思ってんだ。
なんで距離をおかなきゃならねぇ事態に陥ってると思ってんだ!!
お前らのせいだろうが!!
いやいやいや落ち着け俺。
初日からこんなんでどうする俺。
取り乱したらカッコ悪いだろ。
余裕のあるかっこいい俺であれ。
よし大丈夫だ銀ちゃんかっこいー。
大体あれだ、あれなんだよ。
昨日の土方の返信。
『わかった』
のみだったんですけど。

「…………はぁ……」

不安すぎるでしょうがあああああ!
しかもメールきたの夜だよ夜!
部活終わって家に帰って飯食ってまったりしてから打った感じだろ。
タイム・ロス!
俺がその間どんなにやきもきと不安にかられていたことか。
そんだけ待って『わかった』の一言ってさらに不安!
あああ!もう!嫌!

「うっ眩しい!」

カーテンを開けると強い光が刺すように俺を貫いた。
この荒んだ心には少々刺激が強いぜ!
まるで浄化されてさらさらと灰になっていくようだ。
ああ…灰になったら、お前は俺を小袋に入れて持ち運んでくれるだろうか。

「それなら俺は灰になっても本望だぜえええええ!!!」

「朝からうっさいわこのバカ息子!!」

勢いよく開け放たれた扉から、包丁握った母ちゃんが顔をだした(多分朝ごはんの支度の途中だったのだろう)。
あの顔に土方の顔をアイコラしてやりたい。







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