Parallel
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『もう、別れる』
せつなげに寄せる眉。
胸が詰まりそうな、ほどの。
儚くはりつめた表情で、あいつは俺を強く睨み付けた。
有無を言わさぬ強い意思を感じて、俺はただただ言葉を失う。
その目に見据えられ、動けぬ石になってしまったかのように。
瞬間、吹き抜けた風が髪を乱し、視界で揺れ動く銀色の前髪越しに土方がゆっくりと俯ききつく唇を噛み締めるのが見えた。
ああ、そんなに歯をたてたら切れちまうとか、そんなことを意識のどこかで思いながら俺は気付けは喉を震わせていた。
『…なんで?嫌だ』
刹那に手を振りほどかれる。
『お前なんか嫌いだ』
絞り出された、掠れた声。
俺はこいつのこんな張り詰めた声なんて知らない。
下校を促す音楽と風の音であたりはこんなに騒がしいのに、対して土方の声はこんなにも消え入りそうなのに。
どうして俺の耳はそれを鮮明に拾い上げてしまったんだ。
心臓がキリキリと締め付けられる。
そんな言葉、どうせなら聞こえなければ良かったのに聞きたくなかったのに。
『違うあれは誤解だから』
『話しかけるな人がいるだろ』
言うなり土方は俺に背を向け歩き出した。
はっとすると周りの人間の声が鼓膜に届く。
後を追おうとしたが、その声が俺の足を止めた。
ザリと地面を踏み締めただけで動かない。
もし、知り合いに見られたらまた新たな誤解が生じるかもしれない。
そうしたら土方はさらに俺を敬遠して、原因を作った俺を嫌いに…、嫌い、に…。
(誤解じゃねぇのに)
実際に付き合ってるのに。
俺は土方が好きで、土方も俺が好きで、それなのになんでこんなに周りの目を気にしなくちゃならねぇんだ。
悪いことしてねぇんだから、何を言われたって堂々としてりゃいい。
俺は、恥ずかしくもなんともねぇ。
俺達は惚れあってるんだから。
(だから、あいつに変な誤解をさせたまま帰しちゃダメだ)
傷つけたまま帰しちゃダメだ。
あんな顔をさせたまま。
(っ土方)
そう思うのに。
だから脳は足に動けと指令をだしているはずなのに。
さっきの土方の顔が脳裏に浮かぶ。
切ない表情と拒絶を色濃くさせた瞳。
心臓がバクバクと暴れまわり、体の芯に力が入らない。
もしここで後を追って口論になれば人の目を引いてしまう。
そうしたらさらに土方に嫌われる。
嫌われたくない。
(嫌われたくない!)
『土方!』
なけなしの勇気で、去って行く背に声を張り上げた。
足は張り付いて追いかけることができなかったから。
『土方!おい、待てって!あれは誤解だ!』
でも、結局お前は俺を見てくれなかった。
『土方!』
―――恋コイ 4
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