Parallel

□いつか越えて
1ページ/5ページ





『銀時、おいで。』






――――それは遠く遠い幼い記憶。






『ほら、あのお方をお前の生涯を懸けてお護りするんだよ。』

そう言った父に手招きをされて暖かい光が差し込む広い部屋へと足を進めた。
大きな大きなベッドに一人の女性が半身を起こして横になっている。
その周りを囲む女の人達も傍らに座る男の人も、すごく柔らかくて幸せそうな笑みを浮かべていた。

『王様、お妃様、これが私の伜である銀時です。』

側まで寄った俺は父に習い頭をさげる。
が、すぐに温かく優しい声に促されて顔をあげた。
目に映る女の人は本当に優しい笑顔で、髪と同じ色の真っ黒な瞳を嬉しそうに細めている。
傍らに座る男の人が『銀時…誠実そうな少年だな。近くにおいで。』と、幸せそうに言ったので父を見れば父も幸せそうに頷いた。
おそるおそる歩み出てさらにベッドに近づくと、フワリとミルクの匂いが鼻をくすぐる。

『はじめまして。』

女の人に微笑みかけられ、俺は意味もなくとまどった。
美人だからとかだけじゃなく、なにやら緊張に背筋がのびる。
この女の人も男の人も威圧感とかそういうんじゃなくて、そうさせるオーラを持っていた。

『ごめんなさいね、今お腹いっぱいで眠っちゃっていて。』

言われて女の人の腕の中を見ると、小さな小さな可愛いものが左手の親指をしゃぶってムグムグしながら眠っている。

『…………。』

『はじめまして。十四郎っていいます。』

女の人がその子の右手をとって こちらへ差し出す。
見たこともない小さな小さな小さな手。
なんて無防備で、なんて頼りなくて、なんて……

『とう、しろう……。』

無意識に伸ばされた小さな手に手を伸ばす。
小さな掌に人差し指が触れると 、小さな指にキュッと握られる。

『………っ。』

えもいわれぬ感動が胸のうちに広がった。

『この子を、護ってくれるか?』

決して強制ではない男の人のその問いに、俺はバカみたいに首を縦に振っていた。














【いつか越えて】





そこに理由なんて存在しなくて。



俺の総てで護ってみせると、





一目見たその時から、誓いをたてた。










.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ