Parallel

□はじまりはじまり
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「ぎぃーん!」

澄んだ爽やかな青空に少年の声が響いた。

「銀、銀、銀時!」

せわしなく名前を呼びながら着物を翻し、緑生い茂る林を突っ走る少年が一人。
半ズボンから覗く足の脚力は、人間のそれより余程軽やかでしなやかで力強い。
軽快に走る少年の頭には人間のモノとはちがう馬の耳がピンと立っている。
そしてお尻から生えているものは到底人から生えるとは思えない馬の尻尾。
―――少年の名前は近藤勲。
今年で七つを数えたところだ。
この干支の国で勢力を十二分割したうちの一つ、午の馬族近藤家の倅である。

「銀時!」

ザザッと歩みを止めて堪えきれない笑みで声をあげると、前方の茂みからヒョッコリと虎の尻尾が現れた。
それは快活そうな勲少年とは逆に気だるげに揺れている。

「号外号外、起きろ銀時!」

「うるせぇ…。」

尻尾が揺れる茂みを割って叫ぶと、丸くなって眠る少年が唸るように声を漏らした。
少年の頭からは勲と同じく獣の耳が生えている。
ただその耳は馬のそれではなく虎の耳。
着物の下にはくズボンの後ろからは揺れる虎の尻尾が生えている。
少年は近藤家と同じく干支の国の十二分割したうちの一角、寅の虎族坂田家の倅『坂田銀時』。
この二人は同じ年に生まれた事もあり、生まれた時からの友である。

「寝てる場合じゃねぇ!起きろ起きろ!」

「マジでおま…声がでけぇんだよ。自覚しろ。」

「いいから!ホラ立てっ!!」

のっそりとしか動かない銀時を、勲は我慢できない様子でまくしたてる。
方や銀時は至福な昼寝時間を邪魔されてご機嫌斜めの様子だ。殊更ゆっくりに体を起こす。

「ビッグニュースだよ!」

「んだよさっきから。マジでウザいんですけどー。」

「だってだってだってよ!今!親父から教えてもらったんだけどよ!!」

勲は銀時の機嫌など気にも止めずに鼻めどを広げで、さらに声を高くした。

「丑の倅の御披露目してるらしいぜっ!!!」

興奮した勲の声はまるで林中に聞こえるんではないかと思える程でかく響いた。
バサバサと鳥が何羽か飛び立った音がする。

「………………。」

「やっぱり生まれてたんだよ!見に行こうぜっ!牛族の子だから絶対可愛い!十二支の中で一番温和で優しい一族だもんなっ。」

「……………は」

「見に行こうぜぇ、銀時ぃ〜。噂は本当だったんだな。御披露目まで隠しておく土方家もケチだよな。御披露目するってことは跡取りだろ、俺達が仲良くしてやらねぇと」

「はぁぁあぁぁぁぁぁ?!マジかよぉおぉぉぉ!!」

目をキラキラ輝かせる勲の言葉を銀時の絶叫……もとい悲鳴がさえぎった。

「マジで産まれてたのかよ!」

ぅあぁぁぁぁと頭を抱えてもんどりうつ銀時に、勲はキョトンと目を丸くする。

「え、な、え?どうした銀時?」

「だって考えてみろよおい!今年は丑から寅になる年だろぅが!」

「だな。」

「だなじゃねぇよ!つまりは!俺とっ、その丑のガキが!三日間二人っきりになるんだぞ!!産まれてなきゃあの紀○バディーな美人母ちゃんだったのによぉ!」

「銀時、お前って……。」

勲は頭をかきむしって嫌がる友人に、冷たい視線を向けた。
銀時がいうのは、この国の習わしの事である。
この干支の国ではその名の通り干支の十二の動物が代々家を継ぎ勢力を誇っている。
そしてその家の祀る動物が年の干支にあたる時に、前年の干支の代表と来る年の干支の代表が一年の平和を願い三日間籠って祈りを捧げるのだ。
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