Parallel

□手と手を結んで歩くんだ
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干支の国。


たくさんの動物が共存するこの世界では、四本足の動物の他に二本足で歩く動物がいる。
簡単に言えば人間…のようなものなのだが、その耳は獣のソレでお尻からは尻尾が生えている。
その種類は数えきれないほどあるのだが、中でも勢力を誇りこの国の均衡を保っているのが『子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥』の十二種なのである。

その中の寅と午の耳を持つ七つ程の少年が二人歩いている。

「あ〜、マジで寺子屋だるかった。」

踵を擦りながら歩く寅の少年は春のまだ少し冷たい風を嫌うように着物の合わせを直すと、ふと歩みを止めた。

「ん?あれ十四郎じゃね?」

「え、どれ?」

つられて午の少年も歩みを止めて寅の少年の視線の先を追っかける。
そこには牧場に放牧された牛の塊が。

「どこだよ銀時、全然わかんねぇんだけど。」

「あれだよ、あれ。牛の背中に乗ってるやつ。」

「ん〜〜〜〜〜〜?」

今度は銀時と呼ばれた少年が指し示す人差し指をたどって目をこらす。
よくよく見ると小さな塊が牛の背中に寝そべっている。

「あぁ!いた!」

牛がらの着ぐるみのようなものを着た、まだ一歳に満たない赤ん坊だ。

「完全に保護色なのによく気づいたな。」

「ん〜、まぁな。」

ここから二十メートルはあるだろうと思われるのに、簡単にその赤ん坊を見つけた銀時に午の少年――勲は少し驚いた声をだす。

「それにしてもアイツ一人でなにやってんだ?」

「昼寝じないの?」

「確かに陽射しは暖かいし昼寝日和だなぁ。」

銀時は春の暖かさを演出する太陽に目を向けた。
鼻をスンスン動かせば春の匂いが漂ってくる。
そしてまた再び牛の塊に目を向けると……

「あれ、十四郎は?」

さっきまでいた十四郎と呼ばれる赤ん坊が消えている。

「あれいないね。」

「いや、いないねじゃなくてさ。見てたんじゃねぇの。」

「俺も視線外してたし。あいつなに、もしかしてマジシャン?」

「んなわけねぇだろ。0歳だぞ0歳。」

「あぁ、じゃあ落ちたのかな。」

「なるほど。落ちたのか。」

「落ちたんだな。」

「落ち……。」

「……………………。」

「……………………。」

口を閉じた二人の耳に「ンモ〜〜〜。」という間の抜けた牛の声が届く。
ウゾウゾと動く牛の塊。

「「お、落ちたぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」」

同時に叫んだ二人はたぐいまれなる瞬発力で地面を蹴って柵を飛び越えた。

「とぉしろぉぉおぉぉぉ!」

いわゆる絶叫をあげて全速力で牧場を突っ切り、牛に駆け寄る二人。
その形相は危機迫り、途端に驚いた牛が方々に逃げ出す。

「モ〜!」

「ゥンモ〜!」

「あぁぁぁ!動くんじゃねぇぇぇ!十四郎が踏まれるぅぅぅ!!」

「モォ〜ウ!」

銀時の叫び虚しく立ち上る土煙、声をあげて走り去る牛!
二人の少年も声をあげて走り寄る。
そして牛が消えた地面には転がる塊が一つ。

「十四郎!」

それの脇に手を入れて銀時は抱えあげた。
クタリと小さな体は力なく銀時の手に体を預ける。

「十四郎、おい!」

「どうだ銀時!」

遅れて着いた勲が銀時の横に回ってその手の中を覗き込む。
そこには土埃に汚れた十四郎。

「とぉしろ…、十四郎!」

「……………ん、も。」

銀時の必死な呼び掛けに小さな体がモゾリと動いた。

「も…、ぅも。」

うっすらと大きな目が開く。
どうやら幸いにも踏まれる事もなく、大事にはいたらなかったようだ。
運悪く踏まれてでもしていたら確実にこの小さな命はなくなっていただろう。

「ぁ…。」

「も、う〜〜。」

「良かった〜。」

寝起きでグズる姿に銀時は小さく声を漏らし、勲は安堵の息を吐いた。

「馬鹿!なんであんな危ないトコにいたんだよっ!」

「ぅ゛〜!」
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