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□ハント
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いじめるのはそれくらいにして、作業を進める。イサキには材料を刻ませたり、簡単なことを任せる。
一緒に作る時はいつも楽しそうに作るのに、一人となると途端に嫌だ、と言うイサキは見ていて飽きない。

そんなやり取りをしつつもしっかりと手は動いているので、あとはテーブルに運ぶだけとなった。
料理が見栄えするように並べていると、彼女がお風呂から上がってきた。
ありがとうございました、という声に顔を上げると、眼鏡を掛けた彼女がそこにいた。
私は本当に驚いてしまい、それが少々顔に出てしまった。彼女はそれに気付いたようだが、気に留めていない。

平常心を心掛け、お酒は何がいい?と彼女に問う。私はイサキと私の好みのお酒ばかりを揃えたことに焦りを少々感じた。
しかしそれは杞憂で終わる。彼女はファジーネーブルを手に取った。その時に嬉しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
そして、イサキに音頭を任せて、晩御飯を食べ始める。おいしい、と彼女が言った言葉が胸の中で広がった。


食べ始めて3時間程が過ぎた。この頃になると彼女の警戒心もなく、お酒も進んで会話も盛り上がる。
けれど、彼女の関心はやはりイサキに向いている。私はそれが気に食わなかった。
しかしそれは、初めとは違う感情であることに私は気付いている。

実は私は常日頃から眼鏡の似合う子がすごく可愛い、と密かに思っていた。そして、それが気付かれないよう常々チェックをしている。
しかし今まで見てきた中で、彼女ほど眼鏡の似合う子は見たことがない。コンタクトの時と雰囲気がまるで違うのだ。その理由も勿論ある。
しかし彼女に会うまで私の中にあったマイナスイメージは、彼女自身の持つ魅力によって、それは全てプラスになってしまった。
正直私がここまで興味を持つのは珍しい。そして、それがどういうことを指すのか、自分で分かっている。

私は、彼女を手に入れたいのだ。
彼女を手に入れるためにすべきことを考え始めている私がいる。
今までで一番執着するかもしれない、とこの時感じた。
だからこそ、彼女の思いがイサキに向くのは気に食わない。
私は行動を起こすことに決めた。後はそのタイミングを計るだけだった。

その時、イサキの携帯が鳴り出した。それは姉さんの好きなK-1選手の入場曲で、姉さんが設定したそのままだった。
そして電話の主も姉さん本人らしく、その電話に出るべくイサキがそのまま席を外した。
私にとって願っていた瞬間が訪れた。この時を逃す手はない。


そして私は切り出した。あなたは私が頂きます、と。笑顔を忘れずに。
私の笑顔がお酒の力を借りて使うと、脅威になることを知っている。



その時の彼女の驚き様を見て、これからが楽しみで仕方がないとほくそ笑んだ。



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