拍手夢置き場
□鳳仙花
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〈 鳳仙花 〉
「何を考えているか分からない」
忍足侑士が振られる時の言葉は決まっていた。
交際を申し込んでくるのはいつも相手の方。
別れを告げるのも相手の方。
いちいち傷付くわけでもない。
ただ、またかと思うだけの日々。
その日も同じだった。
「侑士が何を考えているのか分からない!!」
泣きながら女の子が走り去っていくのを見つめている時だった。
「よっ!色男ー」
風の音にも似た聞きやすい声に惹かれ振り返ると、そこには栗色の髪をした美しい少女がいた。
(見たことあんな...。確か...立海の...)
必死に思い出している忍足をしり目に、少女は笑いながら近付いてくる。
「追いかけなくていいの?色男さん」
「去るものは追わないのが色男の条件や」
「ふーん」
納得いかない顔をした後に口を尖らせる。
「だったら来る者も拒めばいいのに」
「....は?」
急な言葉に反応が出来ず、思わずきょとんとする。
「気持ちがないなら拒めばいいんだよ?」
「何を...」
「拒む事は悪い事じゃない。本当に悪い事は拒む事を放棄すること」
澄んだ瞳が忍足を見つめる。
「気持ちがないのに、相手の真剣な気持ちを受け入れるのは失礼だよ」
「.....」
「それに...」
目を伏せれば長い睫毛が影をつくり、表情に艶をだす。
「気持ちがなくても...他者に拒絶されるのは痛いよ...」
皆が言った。
何を考えているのか分からないと。
でも、彼女は気付いてくれた。
気持ちを拒絶するのが怖くて受け入れた事。
でも、相手に答えられない気持ち。
拒絶された時の痛み。
会ったばかりなのに彼女は忍足の痛みを理解し、一緒に苦しんでくれた。
(あかん...!!泣きそうや!!)
感情のコントロールが着かなくて瞳の奥が熱くなった瞬間だった。
柔らかな温もりが頭を撫でる。
「辛かったね」
柔らかな温もりは小柄ながらに、一生懸命背伸びをして忍足の頭を撫でていた手の温もりだった。
「かなわんな...」
久しぶりに心から泣き、笑えた気がした。
「感情を出すことを放棄しちゃだめだよ。心が痛くなるから...」
泣き止んだ忍足から一歩、一歩と離れる彼女に忍足が手を伸ばしたが掴む事が出来ない。
「なあ...名前は...?」
忍足がたずねるが、彼女は微笑みながら人混みの中に消えていった。
まるで夢幻のように...。
忍足の心に熱い気持ちを残して...。
鳳仙花;花言葉は私に触れないで
私はこの世界の人間じゃないからいつかは消えるの。消える人間に心を許しちゃだめだよ。