拍手夢置き場
□姫釣り鐘柳
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〈 姫釣り鐘柳 〉
「旦那、だーんーなー」
突然、目の前に現れた佐助に幸村は目を丸くする。
「何だ、突然!!びっくりするではないか!!」
その言葉に佐助は呆れた表情でため息をはく。
「突然って...。何回もさっきから呼んでるんですけど?」
何度呼んでも気づきもしない幸村に業を煮やし、佐助は大きな声を出したのだ。
「む...。そうであったか、すまない」
素直に謝られては何も言えなくなる。
「ま、いいけど...。でも、どうしたの?ぼーっとして」
「いっ...いや、何でもない。それよりも、何か用事があったのではないか?」
幸村に言われ、用事を思い出した佐助は幸村に伝えると再び自分の仕事に戻っていった。
(俺としたことが...。気配に気付かないとは鍛練が足りぬ!!)
そう思いながらも視線は再び先程と同じ場所を追っていた。
幸村の視線の先に居たのは幼き頃より共に育った少女だった。
沢山ある洗濯物を陽の下に干しているところだった。
陽光に照らし出された彼女はキラキラと輝いてみえる。
(美しい....)
幼き頃より共にいるのに、彼女を見ると総て忘れてしまう。
(心を奪われるというのは、このような事を言うのではないだろうか?)
彼女を見ているだけで幸せで、満たされた気持ちになれる。
気が付けば、またぼーっと彼女を見つめていた。
すると、視線に気がついたのか、彼女が幸村を見て微笑みながら手をふる。
自分に気付いてくれたことが嬉しくて幸村も手をふった。
日々美しく成長していく彼女を見ているのは楽しい。
しかし、同時に不安にもなった。
いつか、届かぬところに行ってしまうような気がして...。
(いっそ、誰の手にも届かぬ様に...俺のものに...)
不意にそんな気持ちになる。
「破廉恥な!!何を考えているんだ!!」
急に大きな声を出し踞る。
頭を冷やそうと思っても、気が付けば彼女を再び目で追っている幸村。
彼は既に彼女に囚われているのかもしれない。
姫釣り鐘柳;花言葉はあなたに見とれています
貴女の姿に、心に、総てに見とれてしまい何も手につかない。俺の心は貴女に奪われてしまった。