拍手夢置き場
□藪蘭
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〈 藪蘭 〉
小十郎は嫌な予感がしていた。
奥州筆頭である伊達政宗と片倉小十郎は現在、甲斐の国にいた。
真田幸村の元服の祝いのために来ていたのだ。
しかし、祝いよりも2人は久しぶりに彼女に会える事に胸が高鳴っていた。
そわそわしている政宗の斜め後ろで小十郎は複雑な表情をしていた。
彼女に会ったのは数年前。
あの頃はまだ幼くたどたどしい言葉使いに人形の様な容姿が可愛らしかった。
あれから会う機会がなく今日に至っていた。
小十郎自体、彼女をまるで妹の様に可愛く思っていた。
(ここに来るまでは会いたかったはずなのに...)
きっと美しく成長をしただろうと、小十郎は想像しながら、彼女との再会を楽しみにしていた。
しかし、真田家に近付くにつれて徐々に心に重い不安がのし掛かってきた。
(会いたいはずなのに...)
会ってはいけない。
会ってしまっては取り返しのつかない事になってしまう。
そんな不安が小十郎の表情を暗くさせていた。
その時だった。
「失礼いたします」
優しく澄んだ声に小十郎の身体が固まる。
「入れ」
政宗の言葉に襖が開かれる。
(ああ...やはり会うべきではなかったんだ....)
襖が開かれ、そこにいたのは美しく成長をした彼女だった。
愛らしかった瞳は理知的な光を宿し、幼かった表情は憂いを帯び妖艶な雰囲気すらしていた。
横目で政宗を見れば、彼女に見とれていた。
(申し訳ありません...政宗様...)
会ってはいけなかった。
会ってしまい小十郎の心にいた可愛らしい妹の様な彼女は1人の女として心を支配した。
支配された心は逃れられない。
(俺は...俺は...あいつに心を奪われてしまった....)
藪蘭;花言葉は隠された心。
俺は彼女を愛してしまった。それは許されない感情。主と同じ女を愛するなど、許されない。だから、この想いは永遠に心に隠そう。誰にも知られないように...。