Story

□Episode1:Ruri
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アナタはいま、ドコにいますか?
私のコト…たまには思い出してくれていますか?

できるなら
もう一度でいい…
アナタに逢いたい。








私と彼との出会いは、本当に偶然だった。
今でも、桜の季節が巡ってくる度にあの日の記憶がよみがえる。

〜数年前〜

社会人として働き始めてやっと1年が過ぎ、仕事にも慣れて、割りと楽しい日々を送っていた。
職場から自宅までの帰り道、公園に植えられている桜を眺めながら帰るのが日課になっていた。

「綺麗な夜桜…」

外灯に照らされて、暗闇に浮かぶ桜に思わず口にした独り言。
「ホントだね」
返ってくるはずのない返事に思わず後ろを振り向いた。
振り向いた先には見知らぬ男が立っていた。
しかも、笑顔でヒラヒラと手を振りながら。


「今晩は」
「こ…こんばんは…」
笑顔で挨拶をした男とは対称的に、表情を強張らせる私。

「そんなに警戒しないでよ…」
男は苦笑しながら近づいて来た。
「…………」
私は思わず後ずさる。


見た感じは私と同じくらいの年。
格好は…スーツみたいな服。
顔は割りと好みかも…じゃなくて!
「僕ね、近くでホストしてるの」
「は…?」
ホスト?ホストってあのホスト?
確かに顔は整ってるけど…ホスト!?

「あのさ、別にお金巻き上げようとか思ってないから…ね?」
「はぁ…」
彼は近くのホストクラブで働く『義経』らしい。
源氏名はオーナーの趣味で、スタッフの源氏名はすべて戦国武将になるんだとか。


「…ホストって、もっとキザったらしいのかと思ってた」
「ははっ。君の瞳にカンパイ…って?」
「そうそう!」
古典的…と義経は笑った。
桜を見ながら、私と義経は黙り込んでいた。
さっきまでの他愛もない会話はピタリと止んで、照らされる桜と、時折舞う花びらに見とれていた。


でも…私はそれだけじゃなかった。
月明かりに浮かぶ義経の横顔、煙草を持つ指…。
義経に気付かれないように横目で見ていた。

「そういえば…」
突然、義経が口を開いた。
「ん?」
「聞いてない。キミの名前」
「あぁ…。瑠璃です。」
「瑠璃…。宝石の名前か、綺麗だね」
そう言って私の頬に手をかけた。



触れられている場所が熱を持つのがわかる。
離れようと思えば離れられる…振りほどける…だけど、体が動かない。

スルリと義経の手が輪郭をなぞるように滑り、クイッと顎を指で上げられる。
そして…そのまま唇が重なった。
触れるだけの軽いキス。
一瞬の出来事。

「ゴメン、あんまり可愛いからつい」
「し…信じられない…初対面なのにっ」
悪びれる様子もない義経と、真っ赤になってる私。

ホストってやっぱり軽いんだ!
一瞬でも気を許したのがいけないんだ…。
「でも…振りほどけたでしょ?」

パンッ!
静かな公園に響く乾いた音。

「ッ…」
「ぁ…」
頬を押さえる義経と、真っ赤になって手を押さえる私。

どうしたらいいのかわからなくて、思わずその場を走り去った。



「…まるでシンデレラだね」
義経がそう言いながら私の手帳を拾っていたことには、全く気付いていなかった。
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