No. 1〜30

□No.21
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翔陽戦終了後



声が枯れて、あまり喋りたくない私は、勝利の余韻に浸りながらも、黙ったまま着替えた。

彩ちゃんに怖いと言われてしまった。





「あの子達、更衣室で寝てるらしいわよ」

先に着替え終わった彩ちゃんが男子の様子を見に行ったが、木暮先輩に追い返されたことを話してくれた。

「そっかぁ……じゃ、今のうちに!」

私は白くて小さいケースを片手に、女子ロッカーを飛び出した。

「零!どこに行くの!?」

彩ちゃんのお怒りの声が聞こえてきたので、足を早めた。



私が向かったのは、翔陽控え室。

花形さんに用があった。

私はなんの迷いもなく翔陽の控え室のドアをノックする。

ノックしてから気付いた。

私ってば無神経だよね。

負けたばかりのチームに私がいきなり乗り込むなんて……。

「はい」

そんなことを考えていると花形さんがドアを開けた。

「あ」

「……光月さん?」

私が驚いて固まっていると、ワンテンポ遅れて花形さんが私の名前を呼んだ。

そっか、眼鏡なくて見えないんだもんね。

「零ちゃん!?」

藤真さんが花形さんをぶっ飛ばすぐらいの勢いででてきた。

「あ、あのっ、お疲れさまです」

私は頭を下げた。

なんか、落ち込んだ様子ではないようだなぁ。

「どうしたの?また間違えた?」

藤真さんがクスクスと笑った。

「ち、違います!ちゃんと翔陽に用事があって来ました!」

私は顔を真っ赤にして叫んでしまった。

藤真さんはなおも笑う。

「まぁ、立ち話もなんだから中、入ろ?」

藤真さんが笑顔で中へと誘う。

「男臭いけど」

花形さんがやれやれと頭をふった。

「あ、はい。……じゃなくて!」

そのまますんなり翔陽控え室に入りそうになった私は、なんとか留まった。

「なに?」

藤真さんが笑顔で聞いてきた。

用があるのは藤真さんじゃありません。

いや、少しあるんだけどね。

「花形さん」

私は眼鏡をかけていない花形さんを前にして立った。

「花形さんに質問です!」

私は軽く右手を上げて、花形さんを見上げた。

「眼鏡のスペアは?」

「……いや、無いが」

「近眼ですか?」

「もちろん」

「乱視ですか?」

「いや」

「最後に裸眼いくつですか?」

「……両目とも0.5だ」

「ぴったり!」

私はそんな偶然に一人で喜んだ。

「どうしたの?零ちゃん」

藤真さんが不思議そうに私に尋ねた。
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