No. 1〜30
□No.19
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翔陽戦開始数分前
私は男子控え室の近くにいた。
なぜかというと、早めにコートにでると言っていたのに、誰一人としてコートに姿を表さないから、腹を立ててやってきたのだ。
「えっと、湘北、しょうほく、ショーホク」
私は勢いよく、男子ロッカーのドアを開けた。
「緊張してねーでさっさとコートにでやがれ!」
……あれ?
「悪く言われたもんだね」
男子ロッカーには緑のジャージが何人もいた。
その中にはプリンス藤真さんもいた。
「……きゃー!ここ、翔陽!?す、すいません!ウチのメンバーがいつまで経っても来ないからっ……」
私はなんという間違えをしてしまったんだと、あたふたしながら謝った。
「いいよ、別に。おかげで、また君に会えたからさ」
きゃぁ。
この素敵スマイル。
眩しすぎる。
しかも、君に会えたからとか言われちゃったよ。
とにかく、イケない事をしたのは私だからちゃんと謝らなきゃ。
「試合前の大事な時間に失礼しました」
私はもう一度頭を下げた。
「顔をあげて?」
「藤真」
「いいよ」
誰かが藤真さんを制した声が聞こえたが、私は藤真さんに言われた通りに顔をあげた。
「あのっ」
顔!
顔がめっちゃ近いんですけど!
もちろん私はドキドキした。
「名前を教えてくれたら、許してあげる」
へ?
「な、名前で良ければ」
よかった。怒ってなくて。
「オレは藤真健司」
「あ、はい。私は湘北マネージャーの光月零です」
私は身体をピンと伸ばし、藤真さんを見上げた。
「零ちゃんか。可愛いね」
藤真さんはまた笑顔になる。
可愛いのは藤真さんのその笑顔です。
「おい、藤真!」
5番の眼鏡さんが藤真さんに話しかける。
「花形」
藤真さんがその人の名前を呼んだ。
花形さんっていうんだ。
「湘北のマネージャー、引き止めたら悪いだろ」
……。
「あー!」
私は本来の目的を思い出し、翔陽の控え室を後にした。
「失礼しました!」
「また、後で」
振り返ると藤真さんが私に手を振っていた。
「あ、はい!ご健闘を!」
私は、大分時間が経ってしまったと思い、とりあえずコートに向かった。
「健闘を、だって」
藤真は目を細めて笑った。
「あぁ、これから戦う敵同士だっていうのにな」
花形も零の小さくなっていく後ろ姿を見て微笑んだ。
「……さて、ここからは試合だ」
藤真は、闘志燃える顔つきへと変わる。
「気合い入れていけよ!」
「「「おう!」」」
藤真の激を飛ばし、翔陽メンバーが気合いを入れた。