仙道彰編

□Vol.05
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彰くんが負けた。

負けは残念だけど、コートでの彰くんは勝ちはもちろん負けても輝いていて、とても格好よかった。



曇りのちときどき好き



インターハイ神奈川予選の決勝リーグ。

一試合目、武里に勝利。

今日の2試合目海南戦で、陵南は負けた。

延長試合終了のブザーと共に私は客席から立ち上がり、一直線に1階のフロア出入口まで走った。

彰くんが心配だった。

彰くんがフロアから戻って来るのが見え、私は彰くんに駆け寄った。

駆け寄るけど、なんと言葉をかけていいか分からず私は俯いた。

なにか、声をかけてあげなきゃ。

「零、見ててくれてありがとう」

彰くんに頭を撫でられた。

落ち込んでいると思った彰くんの声は、いつもと変わらない。

逆に慰められている気がする。

彰くんは落ち込まず、次を見ている?

決勝リーグは全部で3戦。

1勝1敗の陵南は次の湘北戦に勝てば、インターハイ出場の切符を手に入れることができる。

もう切り替えてる?

それなら、彰くんが次に進もうとしているのに私がクヨクヨしていちゃダメだ。

私はそう思って彰くんを見上げた。

「負けちゃったけど……」

見上げた彰くんの笑顔は力無いものだった。

彰くんのそれは、今の感情を我慢しているようだ。

どうしよう、こうゆうときに気の利いた言葉が言えればいいんだけど、口下手な私にそれは困難で。

「彰くん、一緒に帰ろ」

私には、それが精一杯だった。

「ごめん。このあと反省会と明日の作戦会議だから、一緒に帰れないや」

「そっ、か」

唯一私にできる、一緒にいることもできないとなるとお手上げだ。

それなら、

「待ってる」

そうだ待っていればいい。

私は彰くんに提案した。

「遅くなるといけないから、ね?」

「でも」

「それに」

私の言葉を遮り、彰くんはこう言った。

「今の格好悪いオレ、零に見られたくないし」

彰くんはまた、にへらと笑った。

格好悪くなんかないのに、なんでそんなことを。

「じゃ、また明日ね」

彰くんは私の言葉を待たずに、控え室に入っていってしまった。

私は呼び止めることもその背中に掴みかかることも出来ず、ただただ彰くんの背中を眺めていた。
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