No. 1〜30

□No.16
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和光中学校 三年生。



手術は無事に終わり、リハビリを始めた頃、神奈川の中学校に春から転入した私は、
新しいクラスで友達ができず、運動が出来ないせいで華奢だ、かわいこぶってると言われていた。

それでも持ち前の明るさで、なんでもないように振る舞っていた。

しかし追い討ちをかけるように、両親がなくなり、衝撃のあまりに笑うことも泣くことも怒ることもしなくなった。

それからは、無視され、居ない存在とされ、たまに暴力を受けることもあった。

私は、暴言や暴力に対してなにも感じることなく、学校に通い続けた。

唯一の希望は、安西先生と三井寿。

そうは思っても、笑うことは出来なかった。





「バスケしたいなぁ」

私は居ても仕方のない教室を抜け出し、屋上で空を眺めていた。



ガチャン

屋上の扉の音が聞こえた。

今、誰にも会いたくない。

話したくない。

かかわり合いたくない。

私は立ち上がって屋上を出ようと、相手と目が会わないように俯いて歩き出した。

「あ、あのっ」

すれ違おうとしたところで呼び止められた。

私は、またかと振り返る。

きっとまた、殴られるのだろうと思った。

振り返ったはいいが、顔が一向に視界に入ってこない。

見えるのは、学ランの黒色とボタンの金色。

私は、顔をあげた。

……。

私の瞳に映ったのは、赤。

綺麗な赤だった。

「あ、あのオレ、2年の、桜木花道と申しますっ」

桜木は姿勢をピンと伸ばして、目が空を向いているようだが、私に話しかけた。

「……(赤い、髪の毛?)」

なんだ、こいつは。

私はその時初めて、桜木の顔を見た。

うわっ、ガラ悪っ!

流石に、身の危険を感じ後退りした。

「あのっ、好きです!付き合ってくださいっ」

桜木はそう叫んで私に頭を下げた。

は?

「今なんて?」

私を好きって言ったのか?

「ひ、一目惚れしたんですっ」

私に?

「好きなんですっ」

桜木は必死に私を好きだと言っている。

こんな私を。

「桜木、花道?」

「はいっ」

桜木は勢いよく返事した。

こいつは、素直で真っ直ぐなやつなんだな。

私はそう思った。

「好きって言ってくれてありがとう」

「……ってことは?」

あ、なんか期待させるようなこと言っちゃったかな?

「あ、いや。ごめん。今はそういう気持ちにはなれない」

私は桜木に頭を下げた。
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