イベント

□2010.02.14
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三井寿エピソード





……。

流川は、わかる。

普段からキャーキャー言われてるから。

こういう日には沢山貰うことは、想像できた。

ただ、なぜ、宮城と桜木がそんなに貰っているのかがわからねぇ。



3年生は自宅学習期間。

そんなイベントもない。

オレが学校に来ているのは、推薦で決まった学校でもバスケを続けるつもりだから、練習しに来た。

「三井サン!チョコ何個貰いました?」

宮城がやけに嬉しそうに聞いてきた。

「3年生にはそんなイベントはねぇよ」

「あ、そっか。自宅学習期間ですもんね。一応」

一応ってムカツクな、おい。

「彩子からは貰ったのかよ」

オレは仕返しとばかりに、宮城に聞いた。

すると宮城の顔が一気に曇った。

その表情から察するに、貰えていないらしい。

……大人気なかったか?

仕返しとはいえ、少し気の毒になった。

仕方ないから、後で彩子に催促してみるか。

って、なんでオレがこんなことしなきゃならねぇんだ。

「チューッス!三井先輩、いつも暇人ですね」

彩子がいつもの明るさで、体育館に入ってきた。

「てめぇ、けなしてんのか?」

「今日は来ないかと思ってたんで」

は?

なんでそんな話しになるんだよ。

「ちょうど良かった。ちょっと来てもらえます?」

「……誰が?」

「三井先輩ですよ」

……オレ?

宮城の視線が異常に突き刺さる気がした。

なぜ今、このタイミングでオレなんだ?

断っても断らなくても、宮城が最悪の状態になりそうなので、その場から逃げるために彩子について行くことにした。



歩いてきたのは、女子更衣室近く。

すると知らない女が一人立っていた。

……いや、知ってる。

いつも体育館の出入口にいた。

誰かを応援している風ではなく、ずっとバスケを見ていた子だ。

たまに、“頑張ってください”とか“お疲れ様です”と、声をかけて貰ったな、オレ。

……オレ?



「じゃ、あと頑張ってね」

彩子がその子の背中をポンと叩き、走り去った。

……この展開、まさか。

「みっ、三井先輩!」

その子は、涙目でオレを見上げた。

やべっ、可愛い。

声をかけられたときは、全く気にしてなかったから、顔なんかよく見てなかったけど、マジ可愛い。

……身長もちいせぇし。

ってか、ほっせぇ。

抱きしめたら折れそう。

って、オレはなにを考えてるんだ。

「あのっ、これ受け取ってください」

その子が両手でオレに突き出してきたのは、その子の手の平より少し大きい赤い箱だった。

「……オレに?」

「はいっ」

オレに突き出されたその子の手は、震えていた。

勇気、出してきたんだな。

微笑ましい気持ちってのは、まさに今のこの気持ちなんだろうな。

「サンキュ」

オレはその箱を受け取った。

「あの、えっと、それではっ」

その子は突然走り出した。

オルは思わずその子を追いかけ、手を掴んだ。

「待てよ」

その子は驚いたようにオレを見上げた。

……このまま連れ出すのは簡単だ。

でもそれは違う気がする。

「部活、見に来るだろ?」

その子はゆっくりと頷いた。

「部活終わったら待ってろよ。一緒に帰ろうぜ」

なんつぅナンパしてんだよって思った。

ただ、なんとなく、間違いなく、オルはその子から目が離せなくなっていた。

その子はもう一度ゆっくり頷いた。

「決まりな」

オレは柄にもなく、その子に笑いかけ、体育館に向かった。

赤い箱を片手に、心臓を高鳴らせて。





St. Valentine's Day

たまには奇跡も起こるもんだな。






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