仙道彰編

□Vol.05
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ガバッ

「ふえっ!?」

帰ろうとした私は、流川くんに抱きしめられてしまった。

「な、なにっ、離してっ」

「泣けばいい」

流川くんは押しても引いても離れない。

「見てねぇから、泣け」

「や、離して」

抵抗も空しく、流川くんの抱きしめる力が増すばかり。

「今、泣かねぇと辛くなるのはおめぇだ」

「……」

そんなこと言われると甘えたくなる。

優しくされると泣きたくなる。

「……泣いて、いいの?」

「かまわない。見てない」

私は流川くんのジャージを握りしめた。

涙が涸れるまで、泣きつかれるまで流川くんの腕の中で泣いた。

なんだか温かくて、泣きつかれた私は落ち着いてきた。



……ギュッ

流川くんが包み込むように私を抱きしめなおした。

ふわわわわっ。

我に帰ったら私は慌てて流川くんから離れた。

「ち」

し、舌打ちされた!?

とりあえず、謝ってお礼を言わないと。

「ごめん」

「別に」

……えと。

「スッキリした」

お礼をいわなきゃ。

「あの」

「これ」

流川くんから差し出されたのは、ポカリスエットの缶だった。

「?」

「やる」

「あ、ありがとう」

ポカリスエットを受け取ると、ひんやりとしていて気持ち良かった。

流川くんって、凄く優しい人だ。

「……」

「……」

「……」

私には口下手で流川くんが無口だから会話がないっ。

彰くんは沢山お話ししてくれるから、私も少し話せるんだけど。

……彰くん。

「仙道が」

流川くんが話しはじめた。

「負けるのが嫌か?」

それはもちろんと、私は頷いた。

「……オレは仙道を倒す」

「え?」

今、なんて……?

「勝つ奴がいればトーゼン負ける奴がいる」

「……うん」

なにを話しているんだろう。

「負けたからって、いつまでも落ち込んでられねー」

そんなの分かってる。

「オレも、仙道も」

そうかもしれないけど。

「それでも、悲しい時や辛い事ってあると思う」

さっきまでの私がそうだったように。

「その時は」

流川くんに右腕を掴まれ、真っ直ぐに見下ろされた。

な、に?

「受け止めてくれ」

流川くんの言葉が、胸に響いた。
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