Novel
□芽生える気持ち
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ツカ………ツカ………ツカ………・・
ツカ……ツカ……ツカ……ツカ…
あれ、足音が近づいてる?
今日は随分と早足ね。
気が付いたら、ずんずんと重さのある足音がいつの間にか大きくなっていた。
もう微かな音ではなく耳をそばだてる必要もないくらい。
どうやらエリオットは客室の方へ用があるらしい。
また双子を探してるのだろうか。
可愛そうだけど、今度サボって会いに来たらしっかり注意して追い返さなくちゃ。
別にサボっていようが働いていようが、どうせお客も滅多に来ないんだし。
門番の仕事なら少しぐらいサボっても正直、平気だと思う。
でも、サボっていることでエリオットに負担がかかるなら話は別だ。
ツカ…ツカ…ツカ…カッ…
通り過ぎてゆくだろうと完全に思っていた足音は急に止んだ。
へ??
危ぶなっ。
あと少しで間抜けな声が口から零れてしまうところだった。
急くように足を進めていた彼が私の部屋前で歩を止めた事が、あまりに予想外で。
パッと片付ける手を止め。
ドアの方へと顔を向けるとそのタイミングを見計らったかのごとく、
コンコンッ ガチャリ。
「アリス…、いるか?」
どうしても返事を待ちきれなかったらしくノック後すぐにエリオットは部屋に入ってくる。
ああもう、それじゃあノックする意味ないわよ。
私は驚きを隠せないまま、ドアからゆっくり彼へと視線を移す。
どきっとした。
エリオットの表情には焦りと不安がちらついていて。
ふわふわの少しオレンジがかった長く可愛い耳も彼の感情に従順でピンとたってはいるが若干ぴょこぴょこと動いてる。
なに、なんでそんな顔してるの。
「エリオット、いるわよ。どうかしたの?そんなに焦って…」
返事を返しながらすっと、その場から立ち上がる。
と、それを聞いたエリオットの表情は瞬時に『パッ』という効果音がついてもおかしくない程に変わった。
耳からは緊張がぬけたのかピンとしていたのが垂れてゆくし、顔が安堵で染まっていく。
が、何故か無言でその場に立ち尽くす彼。
たまに口をもごもご動かしたり、軽く開きはするが何ひとつ声にはせず……。